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<問題だらけの文化祭> 「と、言うことで……俺達のクラスでは、喫茶店をやることになった。異論はないな? あったら前に出ろ」 委員長──政宗が、面倒くさそうにひらひらと手に持っている紙を揺らす。の席から、「文」っていう文字と、「重要」って言う言葉が見えたから、文化祭についての資料かなんかなのだろう。っていうか、そんな重要であろう紙をひらひらさせる辺り、やる気が無さそうに見えるのはだけだろうか。 ……今日はザビー先生がお休みなので、副担の竹中先生が代わりに授業を取り行っている。教室の隅で腕を組み、にこにこと嬉しそうに教室を見渡している姿は、さながら保護者みたいだ。うん、なんていうかにこにこしているのは良いです。けれど、仮面ぐらいは外したらどうでしょうか、と、竹中先生の顔を見ながら思った。 政宗が「ねえな?」とあたりを伺う。そして、誰も何も言わないことを確認してから「じゃ、分担決めるか」と話を進める。 耳に政宗の声が入ってくる。色々と言っているのだけれど、正直、は面倒くさい分担にさえ当たらなければ良い。文化祭は当日が楽しいのだけれど、他は色々と面倒くさい。 喫茶店なのだから、可愛い子が接客して料理上手い人が料理をして、その他もろもろは裏方に回れば十分なんじゃ、と思うんだけどなあ……。 ぼうっと考えていたら、いつのまにやら分担が決まったらしく、政宗が綺麗な字で黒板に文字を書いていた。チョークの音が響く。の名前は──、あった。の名前の横には、『接客』と書かれている。え。接客? え、いや、あの。可愛い子にやらせろよ! いじめか! 心の中で暴言を吐きつつ、は、その文字を凝視していた──。 * あれから、一ヶ月。文化祭当日になった。うん、準備中はなんか、別に楽しくもなかった。って言ったら、駄目なのだろうか。いやでも! 机とか借りてきて、飾り立てて……食材を調達して、料理を作り、味見をして。そんな感じだったので、準備は本当に早く終わった。他のクラスがばたばたと忙しそうに準備をしているのを見ながら、「なんでこんなにも暇なのだろうか」なんて考えたりしていた。それぐらい、後半はすることがなくて暇だったのだ。 が接客をするのは午前の九時から十時半までだ。エプロンを身につけて、その下には制服とは違う服を着ている。注文を聞きに行くのは、なかなかに楽しかった。変なこともされなかったしね。当然か。 ちなみに、一般客も入ってOKなので、大人……というか、見た目、二十代の人が多い。 注文を取っていると、時折話しかけられたりするのだけれど、そんな年頃の人と話すのは、全く無いことなので、凄く緊張する。 で、今回も注文を取ってから、料理を作っている場所へと移動し、オーダーの名前を叫ぶ。すると奥から何人かの声が返ってくる。それから、料理が出来るまで、は別の人の注文を取りに行かなきゃいけないのだけれど、いかんせん疲れた。 高校の文化祭だし、そこまで混まないでしょ、と思っていたのが甘かった。一般の方にも解放しているし、大体、生徒数からしてかなりの多さを誇る学校なのだ。その上、喫茶店みたいなことをやっているクラスは、あんまり無い。なので、今、かなり混んでいるのだ。 まさか、昼前──というか、朝からこんなにも混むとは思って居なかったので、疲労が凄い。 壁に体重を預けて、ふう、と溜息をついた。疲れたなー……。そんなことを思っていると、「!」と言う声と共に、肩に軽い衝撃がかかった。声のした方向へと顔を向ける。 「元親……」 「なんだよ、疲弊しきってんなー。そこまで疲れるのか?」 「ん、まあね……」 「ふうん……」 「っていうか元親、此処は他のクラスの生徒が入ってきちゃいけないんだよ」 仮にも厨房。出ていってー、と力の抜けた声で言って、元親の肩を軽く押す。すると元親は薄く笑いながら、「ああ、出て行くけどよ」と言い踵を返す。 その後、振り向き苦笑を浮かべて、「ちゃんと働けよー」と続ける。働いてますけれど。心の中で小さく零しつつ、厨房から出て行く元親の背中を見送った。 と、同時に「これ」と料理が渡された。それを両手に持ち、はお客さまの所まで持っていく。 料理の名前を言いつつ、テーブルにあんまり音を立てないようにそっと置いて、「ごゆっくりどうぞー」と言い、その場から離れる。 時計を見る。十時半だ。もう、交代の時間だよね、と思い、は着替え場所へと向かった。 何処、回ろうかなー。喫茶店みたいなのはあんまりないけれど、飲食できるところは一杯あるんだよね……チュロスとか、食べたいなあ。そんな事を考えていたら、後ろから「さん」と名前を又もや呼ばれた。この特徴的な声は、竹中先生以外有り得ない。振り向くと、そこにはやっぱり竹中先生が立っていた。 「楽しそうだね」 「楽しそうって、先生! 先生も手伝ってくださいよっ」 「僕? ごめんね、手伝ってあげたいのは、やまやまなんだけれど……」 そこまで言って竹中先生は言葉を切る。竹中先生の後ろから、「半兵衛!」と、先生の名前を呼ぶ声が聞こえた。先生は苦笑を漏らして、「秀吉が呼んでいるから……じゃあね」と言って、踵を返してしまった。おい。そんなので良いのか、竹中先生。というか秀吉が呼んでいるから……って! そこまで秀吉先生と共に居たいのか! 仮にも受け持ちのクラスなんだから手伝ってください! そんなことを思いつつ、歩く。着替え場所は近くだったので、直ぐについた。 中へと入り、制服に着替え、着替え場所から出ると、ばったり幸村に出会った。扉を開けながら、一瞬呆けていると、幸村のほうが「殿!」と嬉しそうに笑う。 「どうしたでござるか、こんなところで」 「うえ、えっ、いや、着替えてたんだ」 微妙にどもりつつ、そう言いながら扉を閉めた。幸村は「このあと、することはあるでござるか?」と問いかけてきた。 すること……。することは、無いよなあ。あるって言っても買い食いしに行くぜー! とか、そういう程度の物だ。 「無いよ。幸村は?」と問いかけると、「某は今、仕事中でござるよー。ほら」と言い、手に持っていた看板を此方に向けてくれた。っていうか、看板持っていたんだね。気付かなかった。 そんなことを考えつつ、看板の文字に目を走らせる。 「甘味処? ……くし団子とか、売ってるの?」 「そうでござる! 美味しいでござるよー。なんて言ったって、佐助が作ったのでござるから!」 「さ、佐助くんが……」 ご愁傷様だ。そんな事を考えつつ、確か佐助は料理上手だったよなー、なんて言葉が、よぎった。 ……食べに行こうかな。幸村に「ね、案内してくれない?」と言うと、笑顔が返ってきた。 正直言って、教室のある場所には自信が無かったので、助かる。「ありがとうね」と言うと、「これくらいっ、気にしないで下されっ!」と、言われた。 そんなこんなで案内された場所には、屋台があった。団子にはなにやら種類があるようで、あんこを上に乗せるか、もしくは醤油で焼いたものか、というのがあった。 幸村が「美味しいでござるよ! 某が言うのだから、本当でござる!」と意気揚々に喋る。……甘味通の幸村が言うのだから、すごく美味しいのだろう。とりあえず、自分の好きな方を買い、その場を後にした。 向かうのは、きっと人気が少ないであろう屋上だ。 階段を登り、屋上への扉を開ける。すると同時に、眩しい太陽の光が目に入ってきた。眩しっ。 目を閉じて、頭を振る。すると、微かに笑うような声が響き、「何をやっている」と言う声が聞こえてきた。 目を開けると、元就が屋上の柵に寄りかかって、微笑んでいるのが見えた。 「ちょっと、目がね……。それより、元就こそ、なにをやっているの?」 「別に……。ちょっと、酔ったのだ」 「? えっ、お酒飲んだの!?」 「何を言っている。人に酔ったのだ」 「あ、そうですか……」 純粋に疑問を口に出したのに、凄い冷たい言葉で返された。酷い。 そんな事を考えつつ、元就に「元就もくし団子食べるー?」と声をかけて、近くに寄った。 元就は一瞬無表情になり、「……良いのか」と語尾を上げる。 「ん、良いよ。はい」 「……」 差し出すと、元就はそれを無言で受け取り、まじまじと見つめる。 「そんなに、くし団子が珍しいのー?」 「なっ、そんな訳ないだろう!」 「だよねー。にしても、元就のクラスは何をしてるの?」 「……休憩所だ」 「……へ」 「一応は特進クラスだからな。文化祭などで、うつつを抜かせぬ奴が多い。 それに、この後にはテストもある。ほとんどの奴らは休憩所かもしくは図書館で勉強している」 「うへえ……」 元就の居るクラスは特進。そのことをすっかりと忘れていた。は普通のクラスなので、どんなことが行われているのか全く想像できない。 そんな事を思いながら、くし団子を口に含んだ。美味しい。さすが、幸村が絶賛していただけある。 うーん、家族へのお土産に、もう何本か買おうかなー。でもお金がなー。 頭の中で議論を繰り出していると、元就が言いにくそうに言葉を発した。 「……、その、ありが、」 「!」 屋上の扉が開く。思わず視線をやると、小十郎が息を切らして立っていた。そして、と視線が合ったと思うと、つかつかと近づき、の手を取った。 何をするのだろうか。表情をしかめさせると、小十郎は「捜したぞ」と息を荒げさせながら言い、「行くぞ」と続けた。 「はっ!? ちょ、え! 何処へ!!?」 「人手が足りない」 「えっ、なんでっ」 「ちょ、でも、の番は終わってるのに……!」 首根っこをつかまれ、ずるずると引きずられていく。酷い。こんな扱いってありか。 心の中で号泣していると、元就が「待て!」と叫ぶのが聞こえた。 小十郎が立ち止まる。そして、元就の方を見て、「なんだ、毛利か」と呟いた。 「は我と話していたんだ。それを本人の意思と関係なしに勝手に連れていくのは、どうかと思うのだが」 「しょうがねえだろ。政宗様がピンチなんだ。人手は多いほうが良いに決まっている」 政宗様がピンチ。なんだかちょっとピリピリとしている場にそぐわなくて、笑える。 元就が「……お前は」と怒りを押し殺したような言葉で何かを言おうとしたのを、小十郎が遮った。 「なんだ。それともと一緒に居たいのか」 「何をっ」 「別に人の恋路を邪魔しようとは思わねえが、今は状況が状況だ。それに、が誰かと仲良くするのは気が食わねえ」 「……っ誰がっ! に恋などしているといった! もういい! 早く連れて行くが良い!」 「ああ。そうさせてもらう」 なんという会話。本人が此処に居るというのに。もっと、こういう会話は違う場所でやっていただきたい。っていうか何言ってる小十郎。何返してるんだ元就。 小十郎は元就との言い合いが終わった瞬間に、歩き出す。は体制を整えることもままならず、ずるずると引きずられていく。止めて下さい。ちょっ、真面目に……。首がっ! そうは思うものの、なにをいう事も出来なかった。はどれだけチキンなのだろうか。 教室の中に入ると、お昼時に近いからか、素晴らしく人で一杯だった。多いから。どんだけ来てるんだ。 あまりの人数の多さにげっそりとしていると、小十郎に「ほら」とエプロンを渡された。 え、いや、あの……普通は物運ぶわけだし、消毒とか色々しなくちゃいけないのでは……。と、疑問が湧く。小十郎をちらちらと見ていると、「早く着ろ!」と脅された。なんだこれは。 ぶつぶつと文句を言いつつ、エプロンを着る。っていうか人手不足とか。アホか。に休みは無いのか。 手をしっかりと洗って、注文を取りに行く。と、何故か元親が働いているのが見えた。あれ。違うクラスなのに。気付かれないように忍び寄り、「元親?」と小さく名前を呼んだ。 驚いたような顔で振り向かれ「ああ、おまえか……」と嘆息される。なんですか。 「ね、なんで居るの? 違うクラスでしょ?」 「ウロウロしてたら捕まったんだよ。伊達の野郎に」 「ふうん……。え、元就のクラスって、なにしてるの?」 「劇だよ、劇。午前の公演は終わったから、なにもすることが無くて、見て回っていたらコレだ。有り得ないだろ……」 「あ、あははは……残念」 「残念じゃねー! 色々、食べに行こうと思っていたのによお……っ」 くう、と元親は俯いた。それをいうなら、もそうなのだけれど……元親は違うクラスの人なので、不憫としか思いようが無い。ぽん、と肩を叩いて、離れた。 その後、は何時間も手伝うはめになった──。 それのせいで、もう午後三時になってしまった。もう、文化祭の終りの時間だ。……っていうか、お昼ご飯、食べてなかったのに……。 お客さまの居なくなった教室を見渡しつつ、思わずため息をつく。 ……あれ、の青春の文化祭は何処へ。そんな事を考えながら、エプロンを脱いで畳んでいると、「ご苦労さん」と肩を叩かれた。 「政宗……」 「なんだよ、おかしな顔しやがって。明日も明後日も文化祭はあるんだから、良いだろ?」 「……今日の文化祭は今日しかなかったんだってば! 折角チュロスとか、食べに行こうと思ってたのに……! くそう、客入ってくるなあああ!」 「いや、おまえ……。今日入った金は打ち上げに使えるだろ。それに赤字にならないためにも客は欲しい」 「……そうですか」 「Ah、でも、付き合わせたのは悪いと思ってる。Sorry!」 ……謝りに誠意が感じられないのは、だけだろうか。じと目で見ていると、「……なんだよ」と怪訝そうに眉を潜められる。いや、あの。怖いんですけれど。 ちょっと気迫に押されてビクビクしていると、教室の扉が勢い良く開き、大勢の人が入ってきた。 幸村、元親、元就、佐助、それに小十郎だ。 元親はを見るなり、「よっ、さっきはお疲れさん」と言って政宗同様、肩を叩いた。元親、何処で着替えてきたのだろう。ふ、と疑問が過ぎるのだけれど、それよりさらに大きな疑問が頭を占める。 ……急に大勢で、どうしたのだろう。そう思っていたのが、顔に出たのだろうか。元親は苦笑しながら「カラオケ行こうぜー」と言う。 カラオケて。 「ストレス溜まっただろ? だったら、歌うのが一番!」 「が音痴だとか、そういう考慮は頭の中に入っていないんですか」 「あ? 音痴? そんぐらい別に誰も気にしねえだろ。行くぜ!」 腕を引っ張られる。え、あの、エプロン畳んでる最中なんですけれど。 心の中でツッコミつつ、「……ちょっ! ストップ!」と言う。元親が怪訝そうな顔で「なんだよ」と問う。それに「エプロン畳んでないし、それに鞄も持ってないし!」と焦りつつ言うと、「なんだ、そんなことか」とぱっと手を放された。急いでエプロンを畳み、鞄を持った。 そんなの様子を見てから、元親は「じゃあ行くか!」との手を再度取り、歩き始めた。政宗が当然とでも言うように、「俺も行くからな」と言い、の横に並んで歩く。 幸村が「何処へ行くでござるかー?」と言い、佐助くんが「俺様としては、近くが良いんだけどね」と続ける。元親が「勿論、安いところに決まってるだろ! だれか割引券もってねえの?」と言い、小十郎が「持っているぞ」と財布から割引券を取り出した。 元就は「我は行かぬと……!」と怒ったように言うが、「まあまあ、良いだろ。旅は道連れ、世は情けってな!」と元親が笑う。それに「意味が違う!」と元就は盛大に語気を荒げた。 なんだか釈然としないけれど……まあ、こういうのも、いっか。 ふう、と溜息をつきながら、達はカラオケへの道を急いだ。 (終り) 2007/09/04 |