<本気でかるた>



小学校の頃、かるたを何かの時間に、やった思い出がある。レクリエーションだったかな。まあ、遊んだのだ。それが意外に楽しくて、クラスの皆で熱中した思い出がある。
と、いう事を話した。前に。伊達に。
すると伊達は面白そうな表情を浮かべ、「へえ……」と一言呟いた。それだけで、会話は終わったのだ。もう、この先、こういった話をすることはないだろうなー、なんて思っていたし、やることだって全く無いだろうな、と思っていた。のに。




「よし! 、やるぞ!」

「やるぞ、やるぞって何を、っていうか政宗さん、貴方、その手に持っているものは一体……」

「Ah、気付いたか。これはな、お前が前に話していた『かるた』だ!」

「あ、いや、うん。それは見ればわかるよ」

「Ah-ha,だったら訊くなよ」

「え。酷い。酷いね、分かっていても聞きたくなるのが心情ってモンじゃないですか!
 っていうか! そうじゃなくて! あのさ、何でかるたが此処にあるか、っていうことを聞きたかったの!」

「へ? なんだ、そのことか。作った」

「つ、つくっ!?」




あまりの行動力に愕然とする。作った、って。文章とか、どうやって考えたんだろう、っていうか、それ以前に! 誰が作ったのだろう。小十郎が一番有力そうだけれど、違うかもしれない。
政宗が自分で作ったという選択肢は無い。絶対に自分では作りそうにないから。……偏見かな。いや、でも、そう思うのは仕方ないよね。

政宗が「ほら、やるぞ!」とかるたを畳みの上にばら撒ける。思わず「ええええ! 強制!? 強制なの!?」と声を荒げてしまう。
すると政宗は「Of course!」と、素晴らしい笑顔を浮かべ、答えてくれた。
……誰かこの暴君を と め て !




最初は二人でやろうとしていた政宗なのだけれど、二人では楽しくない。そういう訳で、色々な人が集められ開かれてしまったかるた会。うん、ネーミングセンス悪いね。かるた会とかね。まんまじゃんっていうお話しです。なに、気にすることは無い。
集められたのは、の知っている武将だけだ。元親に元就、幸村、佐助、それに小十郎。と政宗を含めて、計七人だ。微妙に、多いなあ、なんて思ってしまった。

ちなみに読み上げるのは小十郎の役目のようだ。

政宗が簡単に幸村達に説明をして、かるた会が始まる。

小十郎が読み上げるたびに、反射神経が良いのか、佐助が「ほい」とか「はいはーい」とか言いながら取っていく。うん、忍だもんね。そりゃあ反射神経とか、すばやさとか、早いよね……。
そんなことを考えつつ、羨望の眼差しを向ける。佐助が嬉しそうにニヤけつつ「やーっぱ、俺様ってば強いね!」と取ったかるたを、ふるふると振った。
は別に悔しくもなんとも無かったけれど、どうやら悔しい思いをしている人間が一人……少なからず、一人以上、居る。

政宗が、感情を押し殺したような声を出した。




「……おい」

「ん? なーに、どしたの独眼龍の旦那」




けらけらと笑う佐助に対し、政宗は見る限り青筋までも立てている。ああ、これは本当に怒っているな──、と頭の片隅で考えながら、佐助に哀れみの視線を向けた。かわいそうに。
幸村が「どうかなさったか?」と、怪訝そうな表情を浮かべる。




「おい、コイツは抜きにしねーか」

「へっ! なんでっ!」



佐助が驚いたような声を出して、手に持っていたかるたをポロリと落とした。
政宗はそんな様子に目もくれず、かるたを睨みつけながら言葉を続ける。



「もしくは、お前、手じゃなくて足で取れ」

「そ、それはちょっと──無理があるんじゃあ」

「Shut up. お前、一人がこんな、ばんばん取ってたら、他の奴らが楽しくないだろうが」

「そ、そうは言っても、……だって、こういう遊びでしょ? だったら、俺様に文句を言うのは筋違いってモンじゃあ──」



困ったように方をすくめる佐助を見て、政宗は青筋を浮かべた。え、ちょ、怒りすぎじゃ……。
小十郎も、このピリピリとした異様な空気を感じ取り、「政宗様」と、名前を呼んだ。
冷静になれ、そう言外に隠されているのだろう。声は低かった。

けれど、それさえも政宗にとっては怒りを増幅させるモノにしか、なりえなかったようだ。

政宗は「HA! 小十郎、テメェも俺に何か文句があるのか!」と怒ったように吐き捨てる。……違う、怒ったように、じゃない。完璧、完全に、怒っている。

そんな雰囲気を感じ取ったのか、幸村は「え、あ……」と気まずげに体を揺らす。元親も「ほ、ほら! 遊びだろ!? もっと楽しもうぜ!」と場を和ますような言葉を発した。
そんな中、元就は何をいう事も無く、ただ事態を傍観している。

佐助は「なーに」と侮蔑を含めたような笑みを浮かべて、「こんな遊びで奥州の領主サマは怒っちゃうんだ?」と続ける。
おおおおおい! さ、佐助! 空気読め!

心の中で激しく突っ込みを入れつつ、は何をいう事も出来ずにその場に座っていた。
背中につめたい汗が伝う。



「ほう。遊び、遊びな。そうだよな、遊びだもんなー」



何かを噛み締めるかのように、政宗は何度も言葉を呟き、くく、と喉を鳴らして笑う。
それにカチンと来たのは佐助のようで「……なに、何か言いたいことでもあるの?」とぶっきらぼうに言い放つ。



「良いぜ、そうだよな。遊びだもんな。悪い悪い、そのことを忘れてた。じゃあ、続きをやるか──」



にっこり。そんな言葉がつきそうな笑みを浮かべて、政宗は小十郎にかるたの続きを読むように言う。
小十郎は、そんな政宗の様子を見て、深い溜息を吐いてから、かるたを読み始めた。



「あめ、」



小十郎の声が聞こえた瞬間、素晴らしいまでに大きな音が響いた。音の発生源を探して、は周りを見渡した。
それは直ぐに見つかった。政宗の手が、畳に叩きつけられたときになった音なのだと、理解するのは遅かったけれど。

政宗はゆるゆると地面にたたきつけた手を上げて、かるたを佐助に見せ付けるようにして取る。
正直言う。この時、はたまたま政宗の表情を見たのだけれど、凄く──悪人面、だった。

その次も、次も、次も──、政宗はかるたを取っていた。正し、大きな音を立てて。
正直、怖い。どうしようもなく。横に座っているから、なおさらだ。

助けを求めるように小十郎に視線を向けると、はあ、と溜息をつかれて、「政宗様、この小十郎めも、かるたをやりたいです。が疲れているようですから、代わっても宜しいでしょうか」と言う。
それに政宗は「ん……」と生半可な返事をする。

小十郎……! は、小十郎のことを勘違いしていたみたいだ。小十郎って、実は優しくて、いい人なんだね!
そんな事を考えつつ、小十郎に「ありがとう」と言うと、「お前のためじゃない」と返された。

……ツンデレ?
心の中で変な事を考えつつ、は小十郎からかるたを受け取った。
次の文章はぬ、から始まる。


はすう、と息を吸い、言葉を発した。



「ぬめ」



途端、バン! と大きな音がして、の声はかき消される。音がした方へ視線を向けると、佐助が嬉しそうにかるたを目の前で振っているのが見えた。

政宗はその様子にちっと舌打ちをしたかと思うと、「……次!」と叫ぶように言う。
え、あ、うん。次、ですか。読み終わった(厳密に言えば二文字だけしか読んでない)カルタを置き、他のカルタを読む。が、ほとんどが頭文字か二文字目ぐらいで取られてしまう。
佐助と政宗の独壇場だ。

幸村と元親は呆然と見ているし、元就に至っては何処から取り出したのか書物を読み始める始末。
その上、二人は相手しか見えていないようで、他の人たちのことなんて気にしていないようだ。
小十郎が、その二人の様子を見ながら「政宗様」と名前を呼ぶ。

……声が耳に入らなかったのだろうか。小十郎の言葉は無視をされる。
それに対して、小十郎は思い溜息をつきながら「貴方という人は……」と額に手をやっていた。

なんていうか。集中しているのだろう。凄く。
には考えられない芸当だ。いや、集中はするけれど、それは人の声が聞こえてきたら、大体、打ち切ってしまう。
それなのに──。


かるたを読む。すると響く音。
元親は「……なんか、俺、することねえよな……」と遠くを見つめ、幸村は「そ、某は……参戦……できませぬ」と項垂れている。参戦て。
凄いツッコミをいれたいところだけれど、早く読まないと政宗が怒ってくるので、はかるたを読み続けた。




最後のかるたを読み終わった後、政宗と佐助がかるたの枚数を数えた。
まあ、うん、枚数についてはどっちもどっちって感じだった。でも、佐助のほうが政宗の持っているかるたの枚数より、一、二枚、多かった。ので、佐助の勝ち、ということになるんだろう。

佐助は嬉しそうに、心から笑っているのだろう、満面に笑みを浮かべて「やった、やっぱ俺様ってば強いね!」と声を弾ませる。
対して、政宗はと言うと。……顔を俯かせて、「Shit!」と叫んでいた。そこまで悔しいのか。

心の中で、そんなことを考えていたら急に政宗が立ち上がり「おい!」と声を荒げる。それに、元親、元就、幸村は視線を政宗に向ける。ちなみに佐助はかるたを持ってニヤニヤとしていた。
……そこまで嬉しかったのですか、と。



「外へ出ろ!」

「は……はあ? なにゆえでござるか?」

「鬼、ごっこ、するぞ!」



微妙に恥ずかしそうに、けれど、はっきりと言葉を発する。
鬼ごっこって。驚きだ。何で、そんな……子供っぽい、っていうかなんていうか。いや、カルタも十分子供っぽいけどさあ。

思わず呆けてしまう。政宗はそんなの視線に気付いたのか、「なんだよ」と問いかけてくる。
なんだよ、かあ。



「何でも……」



多分、苦笑を浮かべていたのだろう。政宗は面白くなさそうな表情を浮かべ、「なんだよ、不満があるのか」と尚も問いかけてくる。



「ううん。えっと……なんだか、懐かしいなと」

「懐かしい?」

「そう。小さい頃にやったなあ、って思って」



そう言いおわってから、なんだか妙に気恥ずかしくて頭を掻いた。
すると、「ふうん」と政宗は興味無さ気に言い、「だったら、いいだろ。懐かしくて、楽しいじゃねーか」と続けた。

良いだろ、って。え。もやるの?
「え? も、もしかして……」そう言うと、政宗はしたり顔で「Of course!」と言い放った。







と、いう事で、鬼ごっこが始まっている。ちなみに鬼は政宗と幸村。達は逃げる役目だ。
無理。絶対に無理に決まってる。あの二人から逃げ出せるとか、無理。そんなことできる人、居ない。

は早々にそう考え、隠れることにした。隠れるな、なんて言われてないし……良いよね。
隠れたのは、押入れの中。ちなみに、に与えられた部屋のだ。


暗い中、なにもすることが無く耳に神経を集中させていると、いろいろと声が聞こえてくる。
走る音、後はなんだか鈍い音も。……鈍い音って。

はあ、と小さく、誰にも聞こえないような溜息をついた。疲れたからじゃ無い。

こういうのも、たまには良いんだろうなあ。
必死で、というか本気で、遊ぶ。それは本当に楽しいことだと思う。
本気で遊ぶとストレスとかも無くなるし。、かなりの勢いで奨励するよ、遊ぶの。

それに、嬉しそうな笑顔も──見ることだって、出来るかもしれない。

そう考えると、なんだか嬉しくて頬が緩んでしまう。



──その笑みは、誰かの叫び声によって直ぐに消え去ってしまったけれど。
叫び声って。今さっき、確かに叫び声が聞こえた。声音から察するに、元親が出した声だろう。

……鬼ごっこ、なんだよね……。
浮かんだ疑問はそのままに。の背中には、冷や汗が伝った。


(終り)

2007/09/25