<手首の幸せ>



「そういえばさー、俺様すっごく気になってたことがあるんだよね」



幸村と一緒に縁側で話していたら、佐助が急に音も無く現れた。一瞬、悲鳴をあげそうになったのは内緒だ。いや、だって、急に現れたら普通怖いし! 驚くし!
胸に手を当てると、心臓がばくばく鳴っているのが分かる。じ、寿命縮んだかもしれん……。

そんな事を思いながら、「な、何が」と言うと「ほらー、旦那との手首にある……」と佐助は幸村との手首を指差した。
その先には、かなり前に作ったミサンガがある。それに気づいた幸村は嬉しそうに笑い、「これは、某と殿が作ったものでござる!」と声を弾ませて答える。

それに佐助は苦笑を浮かべ、若干引きつったような声で「いや、そうじゃなくて」と、の横に座りながら言葉を続けた。



「何それ。何なの?」

「あ、ミサンガって言うんだよ」

「ミサンガー?」



訳がわからない、と言った風に言葉を返される。ごもっともです。
苦笑を浮かべて、説明をしようと口を開いたところを、幸村に邪魔された。



「願いが叶うのだ! 良いだろう、佐助!」

「いや、良いも何も……」



ぽりぽりと、頭を掻きながら佐助は呟く。うん、まあ、それもごもっともですね。
あはは、と苦笑を浮かべて言うと、佐助が「でも、良いね。それ、竜の旦那もしてるでしょー」とにやにやとした笑みを浮かべて、達を伺い見た。



「そういえば小十郎さんから聞いたんだけどさ、竜の旦那も旦那と同じ時期に居なくなったらしいよねー。そして、帰ってきたときには変な服着てたし、手首にはそれをつけて、絶対に取ろうとしなかったらしいじゃん」

「そうなのか」

「そうそう。ね、旦那と竜の旦那って、何処に行ってたの?」

「何処って……」



まさか、異世界、と言うわけにもいかないのだろう。幸村は視線をうろつかせ、「ええと」「その」と口を噤む。
そんな幸村の様子を見て、佐助は苦笑を一つ漏らし、「言えないこと?」と言葉を発する。

幸村は「すまぬ……」と一言、頭を下げた。



「いや、別に良いってー。だって、誰にでも言いたくないことはあるだろうしね! それよりさ」



あっけらかんと言い放ちながら、佐助は目の前で手を振った。本当に、気にしていないのだろう。
それよりも、それよりさって。何だろう。佐助の顔を伺い見ると、何かを企んだような表情を浮かべているのに気付いた。
……。何だろう。

にやにや。そういう言葉がつきそうな笑み、だ。佐助は口を開いた。



「俺もその、ミサンガってやつ、作りたいなあ」



幸村が「へ?」と驚いたように言い、「これを?」と自分のミサンガを指差した。
それに佐助はそうそう、と顔を頷かせ、「だって、三人だけって羨ましいじゃん。ちゃん、教えてよ」とに話題を振ってきた。
え。



「別に良いけど……。でも、作り方、あんまり心もとないなあ」

「そっかー」

「うん、でも、そうだね! 佐助の分も作ろう……! 細い紐さえあれば、作れるはず!」

「おっ。ありがとう、ちゃん」



ぐっと拳を作って見せると、佐助は嬉しそうに笑みを浮かべ、に感謝の意を示した。
幸村が「某も、少しは覚えているでござるから、手伝いまするぞっ、殿!」と同様、拳をぐっと握る。
それに力強さを感じながら、「うん! 有難う!」と言った。


まずは、細い紐を何本か捜さなければならない。何色にする? と訊いたら、何色でも、と言う答えが返ってきた。
そ、それは困るんですけれど!

そう伝えると、「んー、だったら……そうだなあ、橙色とか良いかも」と言われた。
橙色。どうして? と訊いてみる。幸村も不思議だったのだろう、怪訝そうにしていた。
それに気付いたのか佐助は苦笑を漏らしながら、理由を言う。



「赤色だったら旦那と被るだろ。だから、橙っつーことで」

「ああ……。そっか、良いかもね。似合うんじゃないかな。佐助の髪の色も橙に近いし、うん、良いと思う!」

「そう? ありがとさん」



幸村が、小さく「某と同じでも良かったのだぞ」と呟く。が、それに対して佐助は「俺様が嫌なんです」と返していた。


丁度、市が立っていたので出かけ、佐助のご所望の色の紐を買い、城へと帰った。
その後、製作に移るのだけれど、正直、忘れすぎていて「あれ?」とか「ちょっ、幸村手伝ってー!」等と、もたもたとしていた。
でも、幸村が「此処は……」「こうやって」と助け舟を毎回のように出してくれるので、なんとかして少しずつ、作って行く事が出来た。

さすが。さすがでござるううう! なんて、心の中で幸村に対して賞賛の嵐を送る。
いや、もうね! 記憶力、抜群だね! 凄いよ幸村!

そんなことを思っていると、幸村が「それより」と言葉を発した。



「佐助は、どのような願いをするのだ?」



純粋な好奇心、なのだろう。佐助はミサンガを編んでいた手を止めて、と幸村を順に見た。
その後、苦笑を浮かべる。


「そうだなあ、何にしよっかな」



顔を上に向けて、佐助はうーん、そうだなー。と言葉を発する。
その後、何かを思いついたのか嬉しそうな表情を浮かべ、「旦那の甘味ばっか食べるの、治りますように、とか」と、おちゃらけた様に声を発する。

その言葉に、文字通り幸村は慌てた。



「えええええ、や、やめ! 何を言うのだ、佐助!」

「あはは。だってさー、毎日毎日団子やら食べるのは……異常だよねえ、ちゃん」

「へっ? えー、あー、どうなんだろうね……」

「変だよ、変、変」



佐助は口をひきつらせ、目の前で手を振る。うーん、なんだ。女の子なら普通、なのだろうけれど……男の人は……どうなのだろう。
心の中でそんなことを考えていたら、縁側が少し軋む音がし、耳にいつも聞いている声が届いた。



「お、なんだよ、お前ら」

「政宗」



顔を向けると、やっぱり政宗が居た。ひらひらと手を振り、近づいてくる。そして、佐助の手の中にあるものを目にとめて、「ミサンガ、か」と呟くように言う。



「そうそう。凄いよねー」

「ああ」



そう言い、政宗は興味深そうに佐助の近くに顔を寄せる。うーん、なんていうか。こんな縁側に大の男が三人、それに女が一人。しかも顔を突き合わせている、ってかなりの勢いでおかしく見えるだろうなー。
そんなことを思っていると、佐助が「うん、決めたよ」と嬉しそうに顔をほころばせる。



「何をだ?」



政宗が不思議そうにする。
それと打って変わって、幸村はと言えば、凄く嬉しそうに「そうか! 何にするのだ?」と訊いていた。
決めた──つまりは、ミサンガにかける、願いごとのことだろう。
も「何ー?」と訊く。



「言っちゃったら効果、薄くなったりするんじゃないのー?」

「え。いや、それは……」

「やっぱり」



じゃあ言わない、と佐助は続けた。それに幸村がえー、と至極残念そうに声を漏らす。
政宗は何か得心したようで「そういう訳か」と呟くように言った。



「でもさあ、これ、……なんだか簡単に千切れそうだよね」



佐助がミサンガを見ながら、呟いた。うん、そうだね。切れそうだよね。
そんなことを思っていると、佐助が「そういえば」と言葉を続けた。



「旦那の、ボロボロなのにどうして切れてないわけ」

「へ」



幸村が変な声を出す。
その後、何だか苦笑を浮かべ「何故だろうな」と言葉を続け、手を自分の顔まで持ち上げた。
手首に巻きつけてある赤い紐。それは、の目から見てもわかるほどにボロボロになっているのだけれど、切れていない。凄い。

政宗も「俺も切れないんだよなー」と言って、手首にあるミサンガを見ていた。

のも、切れていない。というかボロボロになってさえ居ない。
佐助が、苦笑を浮かべた。



「まあ、願いごとは叶いにくいってことだね。っと、これで良いのかな、ちゃん」

「ん? んー……良いとおもうよ、凄く。上手だねー!」

「ありがと」



佐助の手にあるミサンガは、なんだか本当に上手に作られていた。つまり、ほつれとかが一切無いわけだ。ぴっしりと、隙間無く編まれているそれは、どこかの店に並んでいても不思議でないくらいに、綺麗だった。

ほう、と溜息をつきつつ、「これならもうすぐじゃないかな。佐助、つけるときはに付けさせてよ」と言うと、「うん。こっちからお願いしたい程だよ」と笑みを浮かべた。


それから数十分後、ミサンガが出来上がった。
政宗は出来上がったミサンガを見て「Niceじゃねーか」と口笛を鳴らし、幸村は「凄いでござるな! は、早くつけるでござるよ!」と何だか子供のようにワクワクとしているのが見て取れた。

佐助が「はいはい」と言いながら、苦笑を浮かべる。もなんだか苦笑を浮かべてしまった。
その後、「これ、よろしく」と言って、ミサンガを渡され、そのまま手首を佐助はに向けた。

そろそろと服をまくり、は手首にミサンガを結ぶ。



「──で、願いごとって、念じれば良いワケ?」

「そうそう」

「へえ、んじゃ」



佐助は少しだけ思念をするように口を閉ざす。その後、「……うん、これでよし」と嬉しそうに顔をほころばせた。

佐助の笑みは、とても優しく、まで何だか幸せな気分になるものだった。つられ、笑みを浮かべる。
そうすると、佐助が「なーに笑ってるの」とにおちゃらけて訊いてきた。
それに「べーつにー」と返し、は言葉を続けた。



「願いごと、叶うと良いね」



佐助に、幸村、政宗の願いごと。そう続けると、三人は一瞬、呆気に取られたような表情を浮かべるが、直ぐに破顔し、言葉を発する。



「お前のも、だろ」
殿も、でござろう!」
「そうだよ、自分のこと、忘れちゃ駄目でしょ」



一気に言われ、一瞬、が呆気に取られる。や、そういう意味で言ったんじゃないんだけどね。
心の中でそんな事をおもいつつも、何故か凄く嬉しくて、笑みが浮かんでしまう。



「ありがとう」



感謝を述べると、三人は嬉しそうに笑みを深くした。



(終り)


2007/10/08