ヤバイ。ヤバイヤバイやばい!!!

目の前には、いわゆる、ダンジョンボスが、殺気立った瞳でこちらを見ている。
王子とか、ベルクートさんとか、もしくは女王騎士さんと一緒だったなら、まだしも。
今、この場所には、
とリヒャルトしか居ない。





「おあああ!ちょっ、待っ!!ダンジョンボスじゃん、ダンジョンボス!!」


「そうだねー、どうする?」


「どうする、って逃げるに決まってるじゃん!戦えないし!!」





ダンジョンボスを目の前に、焦ったようにそう言うと、リヒャルトは「そうだね、じゃあ逃げよっか。」と、言って。
の手をとって走り始めた。リヒャルトの速さに追いつけるわけなんか無く、足がもつれそうになるのを必死で、走った。


後ろをチラリと見ると、ダンジョンボスが凄い剣幕で追いかけてきていた。オアアアアちょっ、マジで止めて!すんません!
泣きそうになった。此処に来る前の自分に会いに行きたい。「行っては駄目、あそこには。」とか何とか言いたい。

そしたら─…、こんな事にならなかったのかもしれなかったのに。



は、リヒャルトと共に買出しに来ていた。なんでも、包帯が足りないから、買ってきて欲しいとの事だった。
王子様から頼まれたものだし、リヒャルトと買出しなんて嬉しいイベントだし。
断る理由も無かったから、二つ返事を返したら コレだ。

って、なんて運が無いんだろう!
普通にリヒャルトと話しながら歩いてたら、ダンジョンボスに会った。有り得ないって。真面目に有り得ないって。


くうう、と声を漏らした。運、欲しい!



そんな事ばかり、考えていたせいか。足がもつれて転んでしまった。
オイオイオイ有り得ないってマジちょっと待ってください。
がこけたのを見て、リヒャルトが「あ。」と声を上げたのがわかる。
すんません。本当、有り得なくないですか。こけるって、おまっ、それは美少女だけで良いんだよぉぉ!!


ダンジョンボスが、そんな事考えている最中にもすごい勢いで走ってくる。オイオイオイ!ちょっとダンジョンボス手加減してくれ!
『あ、コイツこけてるー、しゃーねぇ、襲うのはやめといてやるよ』的な優しさを持て!いや、持ってください!



そんな事を思いつつ、慌てて立ち上がろうとしたら、足を捻った。
「くあっ!」と、変な悲鳴をあげつつ、地面に座り込んだ。リヒャルトが、の傍にやってきて、
「どうしたの?大丈夫ー?」と訊いてきた。大丈夫なわけが無いだろう。足捻ったんですよ。





「…だ、大丈夫では無いよ……。」


「そっかー、じゃ、どうする?おぶって逃げた方が良いよね。」


「…え``。」


「ボクとしては、戦っても良いよ。勝てるし。きっと。」





そう言って、リヒャルトは腰につけてある、鞘から、小さな小ぶりの剣を取り出して、の目の前に立ち、
ダンジョンボスが近づいてくるのを見て、構えた。





「り、リヒャルト……?」


「んー?」


「…えっと、その…」





こんな得たいの知れないダンジョンボスを倒すことより、逃げたほうが早い。
生き残るためなら……、逃げなければいけない。を、置いて。
例えば、夢小説のヒロインとかだったら、「私を置いて逃げて!」とかなんとか言うのだけれど、
そんな事いえない。言いたくない。

喉まででかかったけれど、口でつっかえた言葉。
が喋ろうとした言葉を感じ取ったのか、リヒャルトは「大丈夫!」と、明るく弾んだ声を返してきた。





「ボク、強いよー?リンドブルム傭兵旅団所属、ヴィルヘルム隊の斬り込み隊長だし。」


「…」


ちゃんを置いて逃げたりしないよ。
そこで見てて。僕が本気だってことを。」





そういって、リヒャルトはいつものような笑顔を浮かべると、向かってくるダンジョンボスに向かって走っていった。
ま、まじでか……。何、この展開。少女漫画か。でも、……何というか、うれしかった。


リヒャルトは、さすが剣王、と呼ばれているだけあって、直ぐにダンジョンボスを倒してしまった。
え、なにこれ。逃げた意味ないじゃん。焦った意味ないじゃん。

呆気に取られていると、リヒャルトが手をブンブン振って、「ミューラーさーんっ!見てるー?」とか何とか言っている。
手でくるくると剣を回して、宙に投げ、片方の手で取って、鞘に閉まった、後、リヒャルトはに寄ってきた。





「ほら、見てた?ボクって強いでしょ。」


「…あ、うん…本当真面目に強いよ…」


「でしょ。じゃ、お買い物、続き行こうか、…って、思ったけど。無理だねー。
、足くじいちゃったんでしょ?」


「…うん。」


「歩けない、よね。」





「うん…」と、が呟くように言うと、「じゃ、しょうがないかー」と、リヒャルトは言葉を続けた。
その後、「ずっとこうしてるままじゃ駄目だし、おんぶしてあげるよ。おんぶ。」と言って、屈んで、に背中を向けた。

ちょっ!少女漫画か!ってか重いってば…!!
そんな事を思いつつ、だけど、それにすがることしか出来ないは、「すんません」と言いながら、リヒャルトの背中に身体を預けた。





「リヒャルトはさー、強かったんだね。」


「そうだね、強くなかったら斬り込み隊長とか、出来ないよ。」


「そう、だよね…」


「…惚れた?」


「っ!何言って…!!!」


「あははは」


「…からかった?」


「うん。」


「…リヒャルトさん、酷くないですか。乙女の心をもてあそびやがってー!」


「まあ、半分本気で半分冗談かなー。
ボクのこと、好き、もしくは好き、どっち?」


「え、ごめん、好きって言葉しか聞こえませんでしたが。一つしかないじゃん。選択肢。」


「だって、ボク、嫌いっていわれるの嫌だし。」


「……。」


「で、どっちー?」





リヒャルトが心なしか弾んだ声で、そう訊いて来る。
だから選択肢一つしかないって…、ああもうどうでも良いや。


「好き…だよ。」と言うと、リヒャルトが「ありがとう、ボクもの事、好きだよ」と返された。
見えなかったけれど、きっと、リヒャルトは笑っていた。






(終わり。)




(後書き)


科白のお題、■ 誓いと忠誠を の08『そこで見てて。僕が本気だってことを。』より。
お題サイト様は、comodo 様です。有難うございました。
なんていうか、楽しかったです。リヒャルトは性格わからない。っていうかヒロインはトリップ子です。そうなんです。
なんていうか、短編でもヒロインはトリップ子です。トリップ大好きです、ラブ、愛してます。

リヒャルト好きなのに!性格が分からないという切なさ。


2006.3.28