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Time to say good-bye 暖炉の火がぱちぱちとはねている音が聞こえる。窓にはうっすらと水がついており、外と中の温度が違うことを示している。音を立て、俺は窓の水を拭った。目に入ってくるのは黒い色だ。どうやら、もう夜のようだ。 アメリカが暖炉から少しはなれたところで座っているのを見てから、俺は夕食を作ろうとキッチンへと向かった。 「ねえねえねえ、イギリス!」 「……どうした?」 今日はアメリカの好きなものでも作ってやるか、と意気込み下ごしらえを始めた俺の福をくいくいと誰かが引っ張る。──アメリカ、だろう。きっと、というか絶対に。 料理を作るのを中断し、ゆっくりと視線を下に向ける。すると目に入ってくるのは、いつもより笑みを浮かべた表情のアメリカだ。赤らんだ頬は、とても柔らかく見え、衝動的に触ってみたくなる。が、そうするといつもアメリカは逃げてしまうので、なんとかして押さえ込んだ。 火を消し、視線を合わせるように屈みこむとアメリカは笑みを浮かべた。 「もうすぐクリスマスなんだよ!」 「クリスマス……」 クリスマス。といえば、十二月二十五日のことをさしているのだろう。──そういえば最近、寒くなってきたような。そう考えると、今まで気にしていなかった寒さが一気に襲ってくるから不思議だ。アメリカの頭に手を乗せ、「そうだな」と頬を緩ませると「ねえ」と小さな口がたどたどしく言葉を紡いだ。 「サンタさん、プレゼントくれるかな」 「そりゃあ、お前がちゃんと良い子にしていたら、くれるだろうな」 そういうと、アメリカは「俺は良い子なんだぞ!」と嬉しそうに笑った。……良い子って、お前。自分で言うかよ。心の中で突っ込みを入れつつ、「そうだな、アメリカは良い子だもんな」と頭を撫でた。すると、嬉しそうに目を細められる。 ──その時、何かが落ちるような音、続いてアイツの──の声が聞こえた。 来たのか。そう思って、周囲を探るように視線をめぐらすと、腰の部分を抑えながら「いったー」と呟いているが目に入った。 アメリカが「!」と嬉しそうに声を弾ませ、俺の手を引き、のところへと走るように近寄る。 は俺たちに気付くと「あ、ごめん。こんばん……は?」と首をかしげた。アメリカが「ー!」と言い、俺から手を離してへと抱きついた。は一瞬、驚いたような表情を見せたが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべ、「アメリカ、どうしたのー? 嬉しそうだね、なんだか」とアメリカの頭を撫でた。 それにアメリカは嬉しそうに「うん!」と返事をし、言葉を続けた。 「俺、良い子だから、プレゼントがもらえるんだ!」 「へ? ……へ、へえー、良かったねー……?」 「うん!」 の視線が俺に向けられる。アメリカが何を言っているのか、よくわからないのだろう。視線には、訴えかけるものが含まれていた。 それに苦笑を漏らしつつ、「もうすぐクリスマスなんだ」と言葉を発した。すると、は得心がいったように笑みを浮かべ、「ああ、そうなんだ」と声を弾ませた。 その後、俺に向けていた視線をアメリカへと向け、「サンタさんに何を頼むかもう決めたー?」と問いを投げかける。そうすると、アメリカは首を横に振りながら「まだなんだぞ!」と言う。 そっかー、とは嬉しそうな笑みを浮かべたまま続け、「なら、早く決めないとねー」とアメリカの頭に乗せていた手を離した。 「うん!」 すると、花が開くような笑みを浮かべるアメリカ。 ──子供というのは、本当に可愛いものだと思う。ましてや、アメリカは俺がずっと育ててきているのだ。これからも育ててやりたい。そばに居て、成長を見守ってやりたい──、そう考えることは、駄目なことなのだろうか。愛情の押し付け、そう思われてもしょうがないのかもしれない。けれど、俺にとって、アメリカは──。 そこまで考えて、思考にすっと影がさした。……アメリカはいつまで、俺の傍に居てくれるのだろう。何回、考えたかわからない。いつかは──出て行ってしまうのだろうか。俺から離れて……何処かへ。 もそうだ。何時かは、俺に会いに来なくなるかもしれない。日本人──。俺とは違うのだから、しょうがないといえばしょうがないのだろう。 ふと思考を止め、アメリカとの様子を見る。いつの間にか座りなおしたのだろう、は体制を直し、膝の上にアメリカの体を乗せている。 耳を澄まさなくても聞こえる、アメリカの幸せそうな声との優しげな声。窓に視線を向けると、いつのまに降り出したのだろう、白い雪が舞っているのが見えた。 「俺、サンタさんにイギリスがもっと料理が上手になるようにお願いしようかな!」 「あー、良いんじゃないかな。サンタさん、きっと叶えてくれるよ」 そう言って、は俺に同意を求めるように視線を向けてくる。……なんだよ、何が言いたい。俺だって努力している、というか、俺の料理はアレで完成しているんだ! 睨むように視線を返すと、は苦笑を浮かべて「……多分」と続けた。 俺はそんなとアメリカの様子を少しの間、視界に収めた後、ふと視線を暖炉にやった。 すると、まきが少なくなってきたのか、火の勢いが弱くなっているのが見える。俺は暖炉に近づき、あたらしいまきをくべた。すると、火の勢いは強くなり、部屋は一層の暖かさに包まれた。 ほう、と溜息のようなものをつくのと、が俺に質問するのはほとんど同時だった。 「何してるのー?」 「暖炉の火が弱くなってきたから、まきをくべたんだ。寒いだろ」 声のした方向に視線を向け、そう答えた。いつのまにやってきたのだろう、はアメリカと手を繋ぎ、俺の近くに立っていた。 そして暖炉を見て、「うわー! 暖炉! すごいねー!」と物珍しそうに瞳を輝かす。暖炉なんて普通だろ、と言いかけて口ごもる。日本には暖炉なんて、無いのかもしれない。あるとしたら、……何だろう。俺は日本に行ったことがない。だから、どんな家が立ち並んでいて、どんな風に人が住んでいるのか、知らない。 突然、口ごもった俺を不審に思ったのかは俺を少しだけ見つめた後、暖炉へと視線を戻し、片方の手で暖炉を触る。 「あ、危な──」 「いやー、これはアレだね! あの動く椅子がなきゃね!」 「う、動く椅子?」 「そう、あの、童話とかでお婆さんが良く乗っているやつ」 そう言って、は「あー、名前忘れたー」と苦笑を浮かべた。……動く椅子。おばあさんが良く乗っているやつ。ロッキングチェアーのことを言っているのだろうか。アメリカがの手をくいくいと引っ張り、「知ってる! ロッキングチェアーって言うんだぞ」と笑みを浮かべる。 するとは笑みを浮かべ、「そうそう! ロッキングチェアー!」と言葉を弾ませた後、俺をちらりと伺い見、言葉を続けた。 「……あるー?」 「……ああ」 「あそこ、あれなんだぞ! ー!」 アメリカはそういっての手をぐいと引っ張った。思いのほか力が強かったのか、もしくはその勢いに驚いたのか、は「うわっ」と小さく言った後、前のめりになった。──こける。そう思い、俺はの腰に手を回し、地面と衝突しないようにした。 は一瞬、身をすくませたが、直ぐに体制を立て直し「ありがとう、イギリス」と俺に笑顔を向けた。……それがどうしてか、少し──というか、かなり気恥ずかしくて「別に、礼を言われることじゃない」と言い、腰に回していた手を離す。 がによによとした笑みを浮かべ、「ふふん、ツーンーデーレー」と小さく呟いたのが聞こえた。……ツンデレ、ってなんだ。 少し首をかしげていると、腰の辺りに小さく衝撃が走った。見ると、小さな手が握りこぶしを作り、俺の腰をしきりに叩いている。犯人は言わずもがな、アメリカだ。 「──バカ、イギリスのバカ! 俺が支えてあげたかったのに! ヒーローは俺なんだぞ!」 「は、はあ?」 「は俺のものなんだぞ! 俺の、俺のっ、ヒロインなのに!」 「あ、……ああ、そうだな」 ぽかぽかと腰を殴る手を止めさせ、俺は頷いた。こういう風に怒ったアメリカは、こういう風にあしらうのが一番良い。アメリカのいう事には全て、そうだな、で答えるのが、一番──。 「第一、イギリスは悪役なんだぞ!」 「……そうだな」 「それで、ヒーローに悪役は倒されるんだ!」 「……そうだな」 「イギリスが俺より力強かったりしたら駄目なんだぞ!」 そうだな。そう言って、俺はアメリカの頭を優しく撫でた。アメリカはその後も、イギリスは、イギリスは、としきりに俺の名前を呼んでいたが、もう何もいう事がなくなったのか、最終的には言葉尻が弱くなり、言葉が途切れてしまった。 それに苦笑を漏らしつつ、俺はアメリカの肩を叩き、「大丈夫、ちゃんとお前はヒーローだよ」と言ってやると、「うん」と言う小さな声が返ってきた。 アメリカが少しだけ沈んでいた表情を、ぱっと明るい表情へと変え、その後を仰ぎ見た。 はなにやら、へらへらとした表情を浮かべ「うん、……うん、いいねー。良かったねー、アメリカ」と、何が良かったのか、彼女の頭の中でしか繋がっていない言葉を発し、アメリカの頭を撫でた。 アメリカは嬉しそうにのなすがままに頭を撫でさせ、その後、ロッキングチェアーを暖炉の前に二つ、ずるずると引っ張ってきた。 そして、そのうちの一つにを引っ張り座らせ、その膝の上に座った。 俺はと言うと、棒立ちになっていたが、アメリカが「イギリスはそっちに座れば良いんじゃないかい」と言うのを聞き、の座っているチェアーと向かい合わせにある、もう一つのロッキングチェアーに座り込んだ。ゆらゆらと不規則に揺れるチェアーに座っていると、何故か眠くなってくる。 それに、暖炉の前だ。心地よい暖かさが身を包むし、うつらうつらとしてしまうのもしょうがないだろう。 小さく、欠伸をこぼす。寝るな、寝たら夕食はどうする。アメリカが作るなんて、出来るはずが無いだろう。気付かれないように首を振り、眠気を無くそうとしていたら、アメリカの「ねえ、! これを読んで!」と言う声が聞こえた。 視線を向けると、アメリカがに持っていた絵本を差し出しているのが見える。は絵本を手渡された後、中身を開き、いかにも嫌そうな表情を一瞬浮かべた。が、直ぐに「……が、頑張るけれど、間違ったらごめん……」と謝り、たどたどしく言葉を発しはじめた。 「む、……むかし、むかし? あるところに? 一人の女の子が居……ま、した」 アメリカはによりかかり、うんうん、と小さく呟きながら頷いている。瞳はきらきらと輝いており、とても嬉しいであろうことがわかる。 ──こういうことが、こういう景色が、いつまでもあれば良い──。 さよならを言う時などが、来なければ良い。いつまでも。 俺は瞼を閉じる。の声が、優しく耳朶を打っていた。 (終り) Time to say good-bye っていう曲がありますよね。それを聞いたときに思い浮かんだので、これは曲ネタと言うのでしょうか。よくわかりません。 2007/11/23 |