ずきずき。
頭が痛い。



<だから、気になる>





朝起きて、身体にダルさを感じた。
何故なのだろうか。わからないけれど、身体を動かすことが、なんだか面倒臭く思えた。
どうしたんだろう。
季節は秋の中ごろ。この頃、急に冷え込んできた。夏の頃の暑さが嘘のようだった。


ふんっ、と気合を入れて、布団から出て、リビングを目指す。
政宗がソファーに座って、テレビを見ているのが、見えた。
政宗の近くまで行き、「おはよう」と声をかけた。すると、政宗は微笑を浮かべながら、
に「ああ。Good morning!」と返した。





「…んー?あれ、幸村は?」


「ああ、幸村か?アイツは、新聞取りに行ってるぜ。そろそろ戻ってくるだろ」





政宗がそういい終わると同時に、玄関の扉が開き、「ただいま戻ったでござるよー!」と元気に言う
幸村の声が聞こえた。
おお、噂をすれば影ってこの事だなあ、本当に。
そんな事を思って、幸村に向かって、「おはよう!」と言おうとした時。

地面が、歪んだ。


何でだろう、身体が傾いていく。
うわあ。このまま傾いていったら床にダイブしちゃうよ。それだけは断じて阻止したい。
っていうか、床と正面衝突したら絶対痛いよね。痛い。絶対に!!

身体を立て直す力も無くて、しょうがないから目をギュッと瞑り、次に来る衝動に耐えようとしたけれど、
衝動はいつまで経っても来なかった。
その代わり、おなかになんだか圧迫感があった。


視線を、お腹の方へと進めていくと、誰かの腕があった。
ああ、誰かがを後ろから抱きしめてくれたから、は床と正面衝突せずに済んだんだ、
へえー、感謝感謝…って…え。だ、だだだだ抱きしめッ!!!?


まさに思考回路はショート寸前だ。誰か助けて。
焦って焦って焦って、その手から逃れようと、抱きしめてくる手を持った時、
ため息のような物が混じった声が耳を掠めた。





「…お前、急に倒れるなんて…。
 危ないだろうが」


「…えっ、あ、うん、ごめん、本当ごめん!そして有難う!
 それで…、その、手を離してくれませんか!」


「…」


「あの…、何故に無言になるんですかね」





そういった瞬間、ぐるんと身体をまわされて。次の瞬間には、後ろにいたはずの政宗が、の目の前に立っていた。
あ、ああ…180度回転、みたいな…。いや、でも、もっと優しくしてくれたって良いのでは。

政宗が「…風邪か?」と訊いてくる。
風邪なんて、そんな馬鹿な。一応、健康的に過ごしているつもりなんだけどなあ。

「あはは、そんなこと無いよ」と、反論するように声を出す。
すると、政宗は少し苦々しそうな表情を浮かべて、「やっぱり、風邪じゃねぇか」と、呟くように言った。





「…いや、そんな事ないと…思うんだけどなあー…」


「声」


「へ?」


「かすれてる」


「あ…、そうなの?」





気付かなかった。そう言葉を続けたら、政宗に「お前なあ…」と呆れられた。
え。いや、病気とか、自分の事って自分ではよくわからないモノですよー?政宗ー。

そんな事を思いつつ、苦笑いに似た表情を浮かべていたら、後ろから凄い衝撃が来た。腰に。
え ちょ 腰!腰ーーー!!!折れるから!骨が折れちゃうから。

背中から、少し震えた声で、「有佐殿ぉぉー、某っ…、驚いたでござるー!」と、言われた。
幸村…いや、幸村だよね?うん。





「…あああ驚かせてごめん」


「そ、某に謝らなくても良いのでござるよ!
 ええと、そのっ、某は…、有佐どのが心配でござる!とにかく!!」


「…あ、そう、なんだ…アハハうふふ」





幸村、心配してくれているのは嬉しい。なんだかとっても嬉しいよ!けどさ!
大きな声で話されたからなのか、幸村の声が頭の中で反響して、とてつもなく、頭がいたい。
オー頭痛ヨー。イタイイタイネー。 何やってるんだろう。

幸村の頭に手を伸ばし、「大丈夫だよ」と繰り返しながら、頭をさすった。





「心配しなくても、大丈夫ー!うんうん!」


「大丈夫、で、ござるか? 本当に? 嘘をついてはおりませぬな?」


「馬鹿、嘘をついているに決まっているだろ。こいつの顔、真っ赤じゃねえか」





そういって政宗は呆れたように溜息をつき、の体をひょいと抱き上げた。って、ええー! お、お姫様抱っこ!
重いから、重いからー! と言おうとしたのだけれど、あまり舌が回らなくて、「、おもひから」と、何やら古文に出てきそうな言葉を発する。
政宗がの頬をぱち、と叩き、「重いとか重くないとか、そういう事言っている暇があったら休め。寝ろ」と怒ったように声を出す。

お、怒ってらっしゃるー!

政宗は幸村に、「幸村、おまえ、お粥つくっておけ! 俺は有佐の世話をするから」と言い、幸村が「あ、わ、わかったでござる!」と言葉を返したのを聞き届けてから、の部屋へと入る。
部屋には、起きた時に引いてあった布団があり、政宗はその上にをそっと下ろした。
そして、に「おい、お前が前に言っていた、冷えピタ……ってやつは、どこだ」と聞き取りやすいようにするためか、一音一音はっきりと発音する。

冷えピタ、ね……何処だったかな、たしかあそこに置いといた様な。記憶を掘り返し、は冷えピタのあるであろう場所を指差す。
その指先を辿り、政宗は冷えピタを取りに行くためなのかの傍を離れた。どうしよう、少し心細いと思うのはしょうがないことなのだろうか。


政宗は直ぐに戻ってきて、のおでこに冷えピタを貼った。涼しくて、気持ちいい。ほう、と息を吐くと、政宗は「ほら」と言葉を発した。
何が、ほら、なのだろうか。政宗に視線を合わせて、次の言葉を待った。




「風邪、引いているじゃねえか」


「あー……うん」


「自己管理がちゃんと出来ていない証拠だ」


「……返す言葉もございません」





そう返すと、政宗は一瞬黙り、そして声を震わせながら言葉を紡いだ。





「……もし、」


「はい?」


「俺が気付いていなかったら、どうしていたんだ」


「どうって、……多分、自分では気付かないから、そのまま普段どおりに、」


「馬鹿だろ、おまえ」





政宗は吐き捨てるように、そう呟く。え、酷い。なんか、いつもより凄い酷くないですか。
そう問おうとしても、なんだか風邪って自覚してから、凄い身体がダルくて、辛い。
政宗が、泣きそうな声で、





「もし、大事になったらどうしていたんだ」


「大事、って……」


「もしも、だ。もしも」


「どうだろう……、でも、そうなったら、政宗さんたちに迷惑がかかっちゃうね、ごめん」


「俺達のことは、どうでも良い。お前のことを訊いているんだ」


「それは……」





わかんない、や。そう答えを返すと、政宗は「お前はもっと、自分を大事にしろ!」と怒ったように言葉を紡いで、
そっぽを向いた。あはは、なんだか何時もの政宗じゃ無いみたいだ。ちょっと、可笑しい。

そんな風に思って笑みを浮かべると、政宗は「寝ろ!」と、やっぱり怒ったように言って、布団をの顔まで上げた。ちょ、苦しいから!

……そんな事を思いながらも、でも、政宗がの事を心配してくれているのは良くわかるから、は何だか嬉しくて、もう一度だけ、笑った。
















政宗は、有佐が寝たのを確認してから、重いため息をついた。

(──こいつは、人に構いすぎる)

自分の事を、ちゃんと考えているのだろうか。こんなお人よし、有り得ないだろ、普通。
そんな事を考えながら、政宗は有佐から視線を逸らした。


乱世には、こんなヤツ、居なかった。
全て、ほとんどの人間が自分のために戦い、そして消えて行った。別段、それは可笑しいことだとは思わなかったし、不思議にも思わなかった。
それが普通だと、幼い頃から思っていたからだ。

利用できるものは利用し、なんとかして自分の武勇を天下に馳せる。その為には、手段を選んでいられなかった。

だから、なのだろうか。

(コイツは、……有佐が、気になる)

時折変な行動を起こしたりする以外は、普通の女だ。それなのに、何故か気になって仕方がない。
此処に来た時、初めて会った相手からだ、と、そう思っていた。これは一時的な気の迷いなのだと。
それでも、有佐の笑みを見るたび、声を聞くたび、気持ちは膨れ上がり、政宗の手にはおえない物へと変化していく。


だから。


風邪をひいている、と思った時、血の気がひくような思いがした。俺が右目を無くした様に、こいつも風邪のせいで何処かに悪いものができるかもしれない。
俺みたいに、蔑まれ、嫌われるようになるかもしれない──。
それは、駄目だ。

そう思った瞬間、政宗は強引に有佐を抱き上げ、布団へと運んだ。


政宗は、安心して寝ているであろう有佐の方に視線を向け、一言呟いた。




「……ばーか」




俺にこんな感情を持たせたお前を、俺は一生許さない。ずっとついていく。お前が嫌だと、言っても。


自分の子供じみた感情に笑みを零しながら、政宗は有佐のことをずっと見つめていた。






(終わり)


6000番を踏まれた新鮮龍様のキリ番で、リクエストは連ヒロで政宗夢。主人公が風邪をひく(自覚なし)。それに気付く政宗。でした。
遅れてしまい、申し訳ありません。その分、頑張ったので、宜しければ貰っていただけると嬉しいです。
そして、少しでも読んでいて楽しく感じていただけたら、これ以上嬉しいことはありません。

それでは、リクエスト、有難うございました。

2007/7/9