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ピアノの音色が、響く <想いの旋律> 夜だ。まあ、窓の外を見れば暗くなっているから、そんなの一目瞭然なんだけれど。 っていうか、何でこんな時間に来るんだろう……。いつもは大体、朝に来るはずなのに。 確か昨日は昼に来て、オーストリアに食べ物ご馳走してもらったっけ。 まあ、でも、今は夜だ。オーストリアは絶対寝ているだろうから、うっかり出会っちゃったテヘ的な感じにはならないだろう。 なので、は、が起きるまで何もすることが無い。盛大に溜息を吐いて、は近くにある窓の外の景色を見た。 吐き出す息が白い。夜だし、それに多分、今は寒い時期なんだろう。そう納得したと同時に、急激に寒さが襲ってきて、「さむう……」と呟きながら手を擦り合わせる。寒さまであるなんて、なんてリアルな夢。 すると、後ろから溜息のようなものと同時に、肩の上に何かがかけられた。毛布だ。 「全く、貴方は……今が寒い時期だと知っていて、そんな服を着てくるのですか」 「……え……。あ、ああー、オーストリアー。こんばんは」 「……こんばんは。それにしても、本当に貴方は来る時間がばらばらですね。昨日は昼に来ていたのに、今日はこんな真夜中ですか」 「いや、それは……なんていうか、文句は神様っていうかの脳に言ってください」 「……なんで貴方の脳なんですか……」 「──いや、それは……なんていうか。ま、まあ、そんな事は置いといて! オーストリアってば、なんでこんな真夜中に、こんな所うろついているの?」 「……うろついてなど居ません。ただ、見回っていただけです」 「見回り、ですか……」 「そうですよ」 「……見回りは、終わったの?」 「……まあ、大体は」 「ね、この後ヒマー?」 「……暇というか、寝ます」 「……ですよねー、なら良いや。ごめん、おやすみー」 オーストリアが怪訝な表情を浮かべる。折角オーストリアに会ったし、なんか色々話そうと思っていたのに、寝るんだったらしょうがないよね……。 は、が起きるまでなんかしてよう。そう思いながら、どうせだし此処らへん散策しよーっという考えが浮かび、その場を離れようと踵を返した瞬間、オーストリアが声を荒げた。 「お待ちなさい!」 「お、お待ち……!!?」 「私は、今から暇です、しょうがないから貴方の相手をしてあげます」 「へ、へ?」 「そういえば、貴方は私のピアノを聞いた事がありませんね。一応防音は出来ているので、私の部屋に来なさい。行きますよ」 「……え、あ、うん」 オーストリアが踵を返し、靴のかかとをコツコツとならしながら、足早に廊下を進む。 と、突然なんですか……! そんな事を思いつつ、はオーストリアに置いていかれないように、廊下を走った。 ら、怒られた。 「静かに歩きなさい!」って……もう、何……。 少し歩いたあと、オーストリアの自室についたのだろう、オーストリアが扉を開けて、を招き入れた。 入ると、直ぐに目に入ってくるグランドピアノ。なんていうか、高そうだなあ……。 窓からは、青白い月の光が差し込んで、なんだか凄い幻想的だ。 「……そうですね、何を弾いて欲しいですか」 オーストリアが、ピアノの前においてある椅子に座り、手を慣らすためなのか、ピアノで簡単な曲を弾いてから訊いて来る。 何を弾いて欲しい、って……、そこまでクラシック知らないし、第一、今、この時代に何の曲が広まっているのかさえ、わからない。 答えあぐねていると、オーストリアが「リクエストはないんですね?」と言葉を続けた。 「……うん、ないね……。オーストリアの弾きたい曲、弾いてー」 「私が、ですか……。そうですね、それじゃあ、我が国出身、ベートーヴェンのピアノソナタ第十四番嬰ハ短調作品二十七の二を弾きます」 「……そうですか」 正直言う。オーストリアが何のことを言っているのかよくわからない。え? 何? ワンモアプリーズ って感じだ。……はクラシックには疎いから、なんですかその曲、としか思えない。……異様に題名長いなあ、とも思うけれど。 そんな事をいう訳にもいかず、はオーストリアが弾き出すのを待つ。 オーストリアは、すう、と何か気持ちを落ち着かせるように小さく息を吸って、静に吐き、『ピアノソナタ第十四番嬰ハ短調作品二十七の二』を弾き始めた。 最初のくだりでわかった。これって、これって──。 オーストリアが曲を弾き終わる。ふう、と溜息をついたのは多分緊張していたのだろうと思う。 は拍手をして、「これ、知ってるよー! 月光でしょ?」とオーストリアに近づいた。 オーストリアが「月光……?」と怪訝そうな表情を浮かべ、 「まあ、この曲が出来た経緯を考えれば、月光と言うのも頷けますね。けれど、正式名称はピアノソナタ第十四番嬰ハ短調ですから」 「すごく 長いです……」 「そうですね、まあしょうがないでしょう」 「しょうがないで良いんですか……」 「一応言っておきますが、これはベートーヴェンがただ単に長くしてやろう! と思ってつけた題名じゃありませんよ」 「いや、そりゃあそうでしょ……。それはわかるよ、うん。 まあ、それはおいといて、オーストリア、この曲好きなんだ?」 「……そうですね、まあ、好きと言えば好きです」 「……え、なにその微妙ーって感じのリアクション」 「……いえ、好きな曲と言えば、もっと他に思い浮かぶ物があるのですが、どうしてか弾いてしまいました」 「そ、そうですか……」 「──ですが、良い曲でしょう。最初は暗い感じで始まりますが、それが少しずつ明るくなっていく……ように、私は感じます」 「あー、救いがあるって感じ? 暗いまんまで終わっていったら、なんだかアレだもんね」 そうだ、物語は全てハッピーエンドで終わらなければならない、とは思う。暗いまんまで終わっていくなんて、読者が『ウツ』になるだけだ。 オーストリアは「そうですね」と、椅子から立ち上がり、鍵盤の上に赤い布のようなものを置いた。 その後、「このピアノソナタ第十四番、どのような経緯で作られたかお知りですか」と、に問う。 ええ、えええええー知らないよ、そんなこと……。っていうか、どのような経緯って……え? が答えずに居ると、オーストリアは視線をピアノに落とし、口を開いた。 「ベートヴェンが三十歳の時、イタリアの伯爵令嬢ジュリエッタ・グイチャルディに捧げるために作られた曲なんです。──月の光が差し込む部屋の中、ジュリエッタへの想いを込めながら、作曲されたそうですよ」 「……へえー何、なんか浪漫だねえ!」 「浪漫……そうですね。ジュリエッタはベートーヴェンの不滅の恋人とも言われていますし」 「不滅の恋人! うはー! すごいっ! いいなあ、凄い、不滅の恋人って……ええー良いなあ」 「何が良いんですか?」 「だってさ、そこまで言われるほど仲良かったんでしょ?」 「……ええ、そうでしょうね。ですが、結婚はしていませんよ」 「え? そうなの?」 「ええ、生涯を独身ですごしたそうですから」 「そっかー……、独身かあ……、でも好きだったんでしょ? どうしてなんだろうね」 「身分差のせいですよ。伯爵令嬢とベートーヴェンでは、身分が違いすぎた──。 それに、年の差もあったんでしょう。たしか、十四、三ぐらい差があったそうですよ」 「へえー……」 ピアノから離れ、オーストリアがの近くへと来る。そして、その後、の顔をじっと見つめた後、言葉を発した。 「まるで、私はベートーヴェンのようです」 なにが? とか、どこが? とか思ったのは事実なんだけれど、そういうのを訊くことが出来る雰囲気ではなかった為、は押し黙った。 オーストリアが、すっと手を上げて、の頬に当てる。 おいおいおい、なんですかコレは。何処の乙女ゲームですか。そんな事を考えつつ、動けずに居る──、と。 「……やっぱり良いところで起きるんだね……」 は呂律の回らない声を出しながら、恨めしげに天井に視線を送る。 ──どうよ。なんなのこの夢。全て良い所で終わりやがってからに! ふざけてるうううう!! もっと、の夢ならキャラとイチャコラさせろよおおおおお!! は頭を抱えながら、そこらじゅうをゴロゴロした。ら、凄い勢いで家族に怒られた。「五月蝿い!」って……酷い……。 オーストリアの足元に、一枚の毛布が落ちてくる。毛布を肩にかけていた人物は、今はもう居ない。 手をすっと下げ、オーストリアは人知れず溜息をついた。 (──叶わない、と知っています……) (絶対に、叶わないと) (貴方は、いつも急に居なくなるし、私の都合に関係なく、急に現れる) オーストリアは毛布を拾い上げ、たたんだ。 (──貴方と私は) オーストリアはそこで考えを打ち切った。このようなこと、考えるだけ無駄だと思ったからだ。そう、彼は国であり、人では無い。と共に居られる時間は限られていて、永遠では無い。 「それでも──希望を持つのは、何故なのでしょうね」 オーストリアは一人の少女に思い馳せて、瞳を閉じた。 終わり。 あ、あれ……。ベートーヴェンの月光。なにやら第一楽章をさしている物らしいですね。まあなんかもう、別に良いや……。月光についてのお話は、前に本で読んだり、wikiで調べた程度ですので、もしかしたら間違っているやも。すいません。ちなみにwikiにはベートーヴェンはドイツの作曲家って書いてありました。でも、本家様では言い争ってたし、もう別にどっちでもいいよ……とか思っていました。すいません。 なんていうかもう……otz 余談ですが待っていてくださいって打ったら、舞っていて下さいになるPCに絶望してました。何を舞えというのか。 不滅の恋人については色々と説がありますけれど……此処ではイタリアのジュリエッタさんという事で! 2007/06/23 |