彼女はある日を境に、こちらに全く来なくなった。何故だろう。それは誰にも分からないことです。
 彼女が急にこちらに来なくなるのは、日常的……良くある事で、全く気にも留めませんでした。ただ、明日になれば来るだろう、という確信のない思いがあったからです。

 何時だって彼女は急に現れ、急に居なくなる。それが普通で、しょうがないことだと。彼女をどう引き止めても、彼女はいつの間にか居なくなる。私はそれを苦には思いませんでした。
 去ってしまっても、絶対にやってくる。そう、信じていたから。

 けれど── 流石に、こんなにも長い間、来なくなるなんて……。おかしいとしか言いようがないのではないでしょうか。
 今までは遅くても一年経てば、やって来たのに。


 私の他にも、彼女を待つ国は居た。けれど、もう── ほとんどは、諦めている。それは、彼女がもう何十年も来ないからだ。私たちの感覚で言えば十年は少ない、けれど彼女からしたら。
 彼女は不思議な……『人』だから。
 人── それは私たち国が守るべき存在で、愛すべき存在。
 命は、とても短い。


 だから、皆……諦めているのだろう。彼女はもう来ない── 死んでしまったのだと。
 それはそうです。彼女が来なくなってから、もう何十年経ったと。
 知っている、わかっている。それでも、信じている。希望を持ってしまう。
 可能性が全くないことくらい、わかっているのに。

 窓から外を仰ぎ見る。夜空には大きな月が昇っており、幻想的だ。




──




 不意に口を突いた言葉は、彼女の名前だった。

 ── 私は、貴方に言いたかった言葉があるんです。

 いつも、いつも、感じていた想い。誰にも言わず、ずっと胸の内で燻っていた、想い。
 もう、伝える相手が居ない今では、意味を成さない感情。




「貴方の事が、……好きです……」




 だから、早く会いたい。会って、抱きしめたい。心配したのですよ、と言って。その後、ピアノを聞かせよう。想いを込めて、貴方だけの為に弾きます、から──
 ぎゅ、といつのまにか拳を強く握っていた。
 叶えたい。けれど、叶わない。伝えたいのに、伝えたい相手が居ない。

 。早く来てください。待っているんです。貴方の笑顔が見たい。貴方の声が聞きたい。貴方に会いたい。




……」




 好きです。愛していると言っても過言では、ありません。
 掠れるように出た言葉は、一人の部屋に良く響いた。



(終わり)

オーストリアさん。激情を胸に秘めているイメージ。
早く言っとけば良かったあああああああって後悔はしなさそう。

2007/08/18