<水面のふね>



「リトー、これやらんー?」



 リトアニアが、久々の休暇を取りポーランドの家にやって来た。ポーランドは久しく見ていなかった友人の姿に頬を緩ませて、リトアニアの腕を引っ張り、リビングルームへと誘った。

 リビングルームには大きな洗面器と、それに並々と注がれた水、そしてがその傍に座って居る。リトアニアの姿を見て、は「リトアニア!」と嬉しそうに名前を呼ぶ。
 リトアニアはそれに「、こんにちは」と薄く笑いを零した。

 ポーランドが強引にリトアニアを引っ張り、洗面器の近くに座らせる。洗面器の中には、小さな紙でつくられた船が浮かんでいる。リトアニアはそれに気付き、無意識に表情を引きつかせた。



「え、まーたするの? ポーランド」

「そうそう! これ、めっちゃおもろいと思うんよー」

「でも……これ、何回目……」



 思わず溜息をつくリトアニアを見て、「なにー、リトは不服なんー?」とポーランドは口を尖らせた。そんな二人を見て、は笑いを零す。



「っていうか、これって男の子と女の子がやる遊びじゃあ……」

「別に、そんなの俺気にしないしー」

「俺が気にするから!」



 リトアニアが不服そうにする中、ポーランドは「ほら」と強引にも船を手渡す。それを渋々と受け取り、リトアニアは船を水の上に浮かべた。ポーランドもそれに従う。

 リトアニアが手を離す。ポーランドも手を離した。船は水の上をしばらくたゆたっていたが、開いた窓から吹いてきた風により動き出し、もう一方の船へと近づいていく。
 十分に距離が縮まったとき、ポーランドは「やっぱ俺とリトは相性最高やしー」と嬉しそうに言葉を弾ませた。



「まあ……小さい頃から傍に居るしね」

「そういうのじゃなくてー、リトってば夢がないしー」

「夢がないって……。ポーランド」



 「酷いなあ」そう続け、リトアニアはポーランドを小突いた。ポーランドは小突かれた場所を擦りながら「リトってば酷いしー」とけらけらと笑う。
 そんな二人には近づき、「あの、うん。えっと、これってさ、どういう意味なの? 、あんまり良くわかんなくて……」とおずおずと疑問を口にした。

 それを訊き、リトアニアは「え、あれ、ポーランド言わなかったの?」と顔を向ける。



「だって、今さっき来たばっかだしー」

「それを早く言いなよ! こんなの、知らない人が見たら船プカプカさせてるだけじゃん!」

「えー、見とったらわかると思ったんよ」

「それはポーランドだけだよ!」

「あはは……、え、んで、どういう意味なの? 相性最高って……」

「あ、うん。これはね、相性をはかる遊びなんだよ」



 そう言って、リトアニアは水面に浮かぶ二つの船を取る。ポーランドが「ああっ」と驚嘆の声を上げ、「なんで取るんー」とリトアニアの手から船を盗ろうとする。が、「もう、ポーランドが悪いんだから静かにしてね」と諌められ、「なにー、リトはいつから俺に命令できるようになったん」と不服そうに呟いた。

 それに構わず、リトアニアはに向き合い、言葉を続ける。



「大きな器の中に水をはるんだよ、大量に。それで、その上に船を浮かばせるんだ。両端から。……相性をはかりたい人同士が、だよ。
 手を離して、船が動いて、もう片方との距離が縮まれば縮まるほど──二人は相性が良い、っていうことになるんだよ」



 ほら、とリトアニアはの手に船を置く。は怪訝そうにそれを見つめた後、「すごいねえ……。っていうことは、リトアニアとポーランドの相性は最高なんだね」と嬉しそうに笑う。その言葉に肩を落としつつ、「これは異性同士の遊びの筈なんだけれどね……」とリトアニアは溜息を漏らす。



「んー、友情、だよね……。良いね、青春だね!」

「俺とリトの友情は不滅やしー」

「あはは、そうだね。……それより、もやってみる? これ」

「え、良いの?」

「うん。勿論だよ」

「なんでリトが仕切るんー」

「別にいいでしょ。じゃあ、早速、船を折ろうか」

「うん」



 嬉しそうに笑うを見て、リトアニアは頬を緩ませる。その後、白い紙をに渡し、折り方を教えた。
 優しく、懇切丁寧にリトアニアが教えたからなのか、船は早く、綺麗に完成した。

 その後、リトアニアはに渡しておいた船を受け取り、から見て反対の方向へと座り込んだ。



「じゃあ、船を浮かべて、せえので手を離そうね」

「わかった」

「それじゃあ……せ、」

「ポーランドルール発動!」



 リトアニアが音頭を取ろうとしたその瞬間、ポーランドがいつの間に折ったのだろう、少々不恰好な船を水面に浮かばせた。それを見て、リトアニアが「ああっ!」と声を上げる。



「ポーランド!」

「別に二人でやれとかは言われてないしー」

「だからって──」

「いいよ、リトアニア」



 怒ったように言葉を続けるリトアニアを遮るように、が声を出した。



「え……? でも」

「ふふん、これは勝負だよね!」

「へ? ?」



 事態についていけないリトアニアは、変な声を上げる。が、当の本人は全く気にも留めない様子で、嬉しそうな笑みを浮かべつつ、言葉を続ける。



「でも、でも! この勝負に勝つのはだよ! リトアニアをお嫁さんにもらうのは!」

「なっ!!?」

「何言うとるんー、リトはなんかにやらんし!」

「ちょ、ちょっと待って、どういう意味」

の船、リトアニアの船に近づいて行ってるしね! これはポーランドの負け確実だよ!」

「俺の船だってリトの船に近づいとるしー」

「ちょ、ちょっと……お願い、待ってよ……」

「リトアニアはの嫁!」

「阻止ー!」

「ちょ、えっ、待ってーー!!」



 事態は白熱していく。ただ一人、リトアニアを置いて。
 リトアニアは喧嘩のようなことを始めた二人を見て、一人オロオロとするばかりだ。



「あ、ほら! の船、リトアニアのにくっついたよ、うわー! これは完璧、の勝ちだね!」

「俺のだってリトのんにくっついとるしー、無視はあかんと思うんよ」

「も、あの……二人共」

「なっ、でも、ほら、のはリトにくっついてるし……、ラブラブだよ、ラブラブ!」

「何言ってるのーー!!?」

「ポーランドルール発動! ずっと俺のターン!」

「訳わかんないよ、ポーランド!」



 リトアニアは悲鳴のようなものを上げ、ゆるゆると顔を俯かせた。耳には、二人の言い合いが聞こえてくる。窓から吹き込む風は心地よさを含んでいて、とても涼しい。
 それなのに、とリトアニアは二人を仰ぎ見る。

 そして再度、溜息を吐き、(仲が良いんだから、こんな風に喧嘩まがいの事しなくても良いのに)と、心の中で愚痴を漏らすように呟いた。
 けれど──。

 リトアニアは二人の顔を、伺い見る。

 二人の表情は、言い合いをしていながらも楽しそうで、嬉しそうで──。
 (まあ、そんなこと言うのもお節介だよね)と、知らず微笑を漏らした。



 水面の上では、三つの船が、風に揺られながら、身を寄せ合っていた。




(終り)



背景色を変えてみたり。姉に見せたらこれなんて会社のホームページ? といわれました。酷すぎる。

2007/09/18