の居る世界は、今、夏だ。
 正直めっちゃ暑い、扇風機じゃ耐えられないくらい暑い。クーラーつけたい。
 でもクーラーつけると地球温暖化になるし……ってか、それ以前に家族に怒られる。何クーラーつけてるんですか、って怒られる。だからつけない。っていうか、つけられない。




<地面の太陽>




 そういえば、とは首を回して水が入っているペットボトルにたらふく入っている向日葵を見つめる。この前、キレイだからという理由で家族の誰かが買ってきたんだ。
 その中の一輪をは抜いて、自分の目の前に持ってきた。きれいな色だ。なんていうか、太陽みたいな色。見ているだけで、幸せになれる。
 ぼーっとそれを見ていると、の瞼はどんどん落ちていき、ついには──。











 目を開けると、はロシアの前に居た。
 ロシアは驚いたようにぱちぱちと瞬きを繰り返した後、「あれ、うわー……、どうしたの」と、嬉しそうに言葉を紡ぐ。笑みを浮かべているんだけれど、なんだか……なんていえばいいのやら。少し、背筋がぞくりとしたのは気の所為にしておきたい。




「──急に現れるなんて、手品? 魔法? それとも……、僕には思いつかないなあ。
 それより、どうしたの。僕の所に急に来て」

「え、いや、なんでだろうね?」

「質問しているのは僕なんだよ。ちゃんと答えて欲しいなあ」

「あ、ごめん……あの、にもよくわかんないや……」

「……ふうん……?」




 ロシアが伺い見るように、をじっくりと見つめ、それから「まあ別に良いけどね」と、可笑しそうに続けた。
 その後、の手元を見つめ、「ねえ、、それは何?」と指を差す。
 ロシアの視線を辿って、は手元を見ると、そこには向日葵があった。




「ああ、向日葵だよ、向日葵」

「ひまわり……綺麗だね」

「そうだね、暑い時期に咲く花なんだよ」

「へえ……」




 ロシアはの手元の向日葵を食い入るように見る。そんなに珍しいかな。……珍しいか。




「ね、ロシア」

「なに? 

「欲しい?」

「わあ、良いの? 貰っても!」

「もちろん、良いよ。あげるね、はい」




 あたしが、向日葵を差し出すと、ロシアは笑顔を浮かべ、「うわ、ありがとう!」と言い、向日葵を受け取った。
 ロシアは手元にある向日葵の花を、しばらく見つめた後、何を思い出したのか急に悲しそうに目を伏せた後、「でも……暑い時期に育つんでしょ? 僕の所じゃすぐに枯れちゃうよ……」と、悲しげな声を発した。
 っていうか切花だから育つとか育たないとか、そういうのは無い様な気が……。




「まあ、なんていうの? 切花だし……、まあ、直ぐ枯れちゃうだろうけれど、うん。
 少しは長持ちすると思うんだけれど……水さえ与えれば」

「切花? ……ああ、根が無いんだね……。ということは、もう死んでいるの?」

「し、死んで……。死んではないよ。生きてる……と思う」

「へえ、曖昧だね」

「ま、まあ、曖昧っつったら曖昧だけれどさ……」




 ロシアが、自分の手に握られている向日葵の花びらを一枚、ぷちっと千切る。おおおう、何してらっしゃるんですかー!? そう突っ込むことはできない。怖いし。ムリだわ、絶対。
 ロシアは千切った花びらを、目の前に近づけて、「綺麗な色だね」と嬉しそうに言葉を弾ませる。
 ち、千切らなくても良かったのでは……色を認識したいだけなら。

 ロシアが嬉しそうに、笑みを浮かべて、




「そうは思わない? 

「……え?」

「だから、この花の色。綺麗だよね、

「あ、ああ、うん。綺麗だよね」

「綺麗だな……太陽みたい。近くに太陽があるみたいで、凄く暖かいよ。
 、これの種はあるの?」

「種? えーっと……買いに行けばあるけれど……」

「そうなんだ。じゃあ、買って来て僕に頂戴」

「へ、へえええ!? ま、マジですか!?」

「本気だよ。……僕のお願いだよ、きいてくれるでしょ。もし、きいてくれなかったら……コルコルコル」

「えええええ何を言う気、ってかする気―─!?」

「あはは、何も? でも、わかってくれたよね。次に会うときには持ってきてね、絶対だよ」

「……わ、わかったよ……」

「有難う、は優しいね」




 そういって、ロシアは又、笑う。正直、最初に見た笑顔とは違う、なんだか優しげで、温かい笑みだった。そういう笑みを浮かべたロシアはとてつもなく可愛くて、は反論する気になれなくなる。
 ……っていうか、コルコルコルって……コルって……。何をする気だったんですかロシア……。

 は人知れず溜息をついた。














 は、瞼を開いた。目の前には、いつものリビングの風景が映る。ああ、そうだ、リビングで寝たんだっけ。
 は伸びをして、ふと気付く。

 ──あれ、向日葵は?

 は寝る前、確かに片方の手に向日葵を持っていたはず。でも、手には何かを持っている、あの感触が無い。見れば、やっぱり向日葵はなくなっていた。
 あれ、落としたのかな。そう思い、はソファーの周りなどを見渡す──けれど、何処にも無い。本当に、どこにも無いんだ。

 無くなった向日葵のある場所は、言わずもがな、なんだろうけれど。あんまり信じられない。だって、あれはの夢なんでしょ? 現実ではないはず、なのに。

 それでも、は何処かで確信していた。
 ……向日葵は、ロシアのところにあるのだと。

 だとしたら。

 は、向日葵の種を買わなくてはいけないのだろうか……。って、そういう問題じゃない、よね……。
 ……え、いや……夢でしょ? ……だとしたら、なんで……。は凄い勢いで頭を抱えて悩みこんだ──。















 ロシアは、手元の花を見て、が居た場所を見る。その後、人知れず笑みを溢した。
 ──は居なくなったのに、僕の手元にはの居た証がある。
それはとても幸せなことで、が本当に居る、ということを改めて実感できるものだった。

 いつも、は急に消えてしまう。そして、急に出てくる。ある時は次の日に、ある時は一週間後に、ある時は一ヵ月後に──。
 が来ない日を過ごすたびに、ロシアは不安を抱える。本当には居るのだろうか、居るとしたらどうして僕のところに来ないんだ、と。

 でも。

 ロシアは自分の手元を見る。先刻、太陽みたい、と評した花だ。

(これは、証なんだ)
(僕と、の間をつなぐ、証──)

 は次に来るとき、この花の種を持ってくるのだろう。

(すこし、驚かせたよね、でも)
(──綺麗な、こんなに明るい花を、育てたいと思ったんだ)

 ロシアは笑みをこぼす。その後、自らの手で一輪挿しを持ってきて、水を入れ、その中に向日葵を挿した。


(次に会うときは、種で……)
(その次に会うときは、この花が一杯咲いていると良い。僕の国の象徴になるように、が驚くぐらいに)


 この雪と、白い雲に覆われた僕に、綺麗な、地面に咲く太陽を。


 ロシアは笑みを濃くし、一輪挿しを自分の部屋へ持っていくため、その場を離れた。



終わり。

ロシアの国花は向日葵ですね。書いていて調べてから知りました。あ、そうなんだー……うわあ偶然。
にしてもロシアに一度でいいからコサックダンスを踊っていただきたい……!

ちなみにロシアで向日葵の種は食べ物です。うひゃー! 美味しいけどさ!


2007/06/24