<幸せの手紙>




 昨日は携帯で遊びながら眠ったせいか、は携帯を持ってアメリカのところ来てしまった。
 アメリカはが急に現れたのに驚きはしたものの、すぐにの持っている携帯に興味を移し、「これは?!」と、指を差した。
 それに「ああ、携帯だよ。携帯電話」と言いながら、アメリカに見やすいように持ち上げた。すると、アメリカは嬉しそうに声を弾ませながら、「すごいじゃないかっ! 携帯、って初めて見たよ!」と言う。
 
 瞳をキラキラとさせ、携帯を「うわー」や「凄いなあ……」と言いながら、じっくりと見つめるアメリカに、は携帯を渡してあげた。データフォルダとか、そういうのはともかくとして、見せちゃ駄目なものはあんまり無かったし、別に分からないだろうし、と高をくくっていたからだ。
 なので、アメリカは今、携帯で遊んでいる。
 アメリカは携帯をぽちぽちと動かすたびに、「すごいじゃないか! 日本は進んでいるんだなあ!」と嬉しそうに笑っている。
 いや、日本っていうか、の世界では、なんだけれどね……。

 アメリカはに断ってからメールフォルダを見て、「なんだか可笑しいね、の文章」と言って、やっぱり嬉しそうに笑っていたのだけれど、何かを見つけたのか「これなんだい?」と言い、の目の前に携帯を差し出した。
 は携帯の画面を見て、答える。




「これは、チェンメだよー」

「チェンメ? なんだい、それ」

「チェーンメールって言って、なんか何人かに出さないと呪われるとか死ぬとか幸せになれないとか、そういうの」

「……ふう、ん……?」




 の説明に納得したのか、はたまた良くわからなかったのか、アメリカはそのチェンメをじっくりと見る。その横顔を見ながら、は、「そういえば……」と呟いた。
 アメリカが「ん?」との方を向く。




「……どうしたんだい?」

「いや、そういえば不幸の手紙とか、幸せの手紙とかあったなあ、って思って」

「不幸の手紙? 幸せの手紙? なんだい、それ」

「不幸の手紙はその名の通り、例えば……、この手紙と同じ文章を五人に出さないと、不幸になるっていうやつ。幸せの手紙はその反対」

「へえ……、凄いじゃないか! その手紙の内容、覚えているかい?」

「え? いや、あんまり……」

「そっか、残念だなあ。イギリスに送ってやろうかと思ったのに」

「へ!? そ、それは酷いよ! やめなよー!」

「ええええー」




 アメリカが不満そうに言って、口を尖らした。か、かわい……! って、そんなことを思っている場合じゃなくて!
 第一、不幸の手紙とかって、貰ったらかなりのショックを受けると思うし、たとえ遊びだとしても出したらいけないと思うんだけれど!

 アメリカは「面白そうじゃないか。イギリスはきっと驚くよ」と、不満そうに言うが、まあ、此処は断固として止めておくべき、だよね!




「駄目だよ! イギリスがかわいそうじゃん」

「ええー、じゃあ、幸せの手紙は?」

「え?」

「それは幸せになるんだろう? だったら、最近不憫なイギリスにぴったりじゃないか!」




 不憫になっているのは大半がアメリカのせいな気がするんですけれど!
 ……でも、ちょっと待てよ、。あのイギリスのことだし、アメリカからチェンメだとしても、手紙が来たら嬉しく思うのでは無いだろうか、という思いが頭を掠めた。
 うん、喜ぶよね。多分。
 
 少しの間、逡巡してから、は言葉を発した。




「あー……、うん、それなら良いんじゃない?」

「だろう! そうと決まったら、さあ書くぞ!
 、何が良いと思う?」

「んー、そうだね……。そういえば、心理テストみたいなチェンメを頂いたことがあったから、それを書けば? なんか、3人ぐらいに送ると願いごとが叶うやつ」

「願いごとか! それは良いね、、見せてくれないかい?」

「んー、ちょっと待ってね……」




 メールフォルダを探って、そのチェンメを見つけ出し、アメリカに見せる。するとアメリカはそれを持って机の方へ行き、紙にそれと同様の文章を書き始めた。……のだと思う。書いているのは何だか知らないけれど、英語だった。読めん。なんだこれ、の英語力を試しているのか。
 ……メールは日本語で書いてあるのに、なんでわかるんだろう、という疑問を抱きつつ、アメリカがイギリスへの手紙を書くのを見守った。

 アメリカが「よし!」と言って、その紙を折りたたみ、封筒にしまう。その上に、燭台から蝋燭を抜き取って、蝋をたらし、その上から何かを押し付けた。

 そして、もう一度、羽ペンを取り、封筒の裏へ名前を書いた。
 アメリカではなく──アルフレッド・F・ジョーンズ と。

 ん……? これって? そう思いながら、アメリカの行動を見守る。アメリカは鳩を呼び、その足に手紙を括りつけ、「イギリスのところへ行ってきてくれ!」と言い、鳩を飛ばした。

 アメリカは、鳩を飛ばした窓に手をかけ、鳩の行く先を見守っている。
 ……その光景を見ながら、は少しだけ、物思いに耽ることにした。


 ──アルフレッド・F・ジョーンズ。
 それって、アメリカの名前だよね。どうして、アメリカじゃなくて、わざわざその名前を書いたのだろうか。んー……? よくわかんないなあ。アメリカじゃ、いけなかったのだろうか。何で? にしても、名前と名字の間にFって格好いいなあ。だったら、・F・か。あ、変だ。すごい変だ、っていうか全然格好よくない。

 そんな事を考えていると、アメリカの家の扉が凄い勢いで叩かれた。アメリカが嬉しそうな、というかそれこそ、悪戯が成功したような、ワクワクとした表情で、扉に近寄りながら「誰だい?」と声を張り上げる。




「俺だ!」

「俺? 俺なんて知らないよ」

「っ、イギリス! イギリスだ! 開けろ、このばかぁー!」

「イギリスかい? いいよ、開けてあげる。ちょっと待っていてくれ」




 アメリカはそれこそゆっくりと、扉に近づいていく。早く開けてあげればいいのに、と思ったし、言おうとしたけれど、やめておいた。
 アメリカが扉を開け、イギリスを迎い入れる。入ってきたから見えたのだけれど、イギリスは片手に手紙のようなものを持っている。んー……アメリカの手紙、なのだろうか。

 アメリカがニヤニヤとした笑みを浮かべながら、「で、どうしたんだい?」とイギリスに問う。
 イギリスは手紙を持った手ではなく、もう片方の手を振り上げ、「こ、こんな手紙送ってきやがって! 俺を馬鹿にしてるのかー!?」と、怒ったように言う。

 アメリカは肩をすくめ、やれやれと言ったような表情を浮かべ、「と一緒に考えたんだぞ。君が喜ぶだろうと思って」と言葉を紡ぐ。
 その言葉にイギリスは、「……?」と言い、あたりを見渡す。と目が合うと、驚いたような表情を浮かべ、「!」と叫んだ。え、なに、どうしたの。




「な、なんでアメリカの家に……!」

「え、ごめん。なんか来ちゃってさ……」

「な、なんか、って……、そんな……」

「なんだい、イギリス。そんなにが俺の家に居るのが不思議かい?」

「ふ、不思議っていうか、その……」

「なに、どうしたの、イギリス。あ、ごめん、邪魔かな? 、外に出ていこうか?」

「じゃ、邪魔なんて、誰も!」

「イギリス、なんだかおかしいよ……どうしたの」




 がそう訊くと、イギリスは「なんでもないっ! 心配なんて要らない、やめろ!」と叫ぶように言う。……こ、れは……一体、ていうか、なんでがそんな怒鳴られなければならないの……。

 そんな事を考えつつ、アメリカの方に視線をやると、アメリカはにやにやとした笑みを続けて浮かべさせていた。アメリカ、にやにやしすぎです。何がそんなに楽しいの。教えてください。

 イギリスが「うー、あー、それよりも、だ! アメリカ! こんな手紙送ってきやがって!」と、アメリカに手紙を叩きつける。
 アメリカは「そんなに嬉しかったのかい?」と、意地悪そうに問う。
 
 すると、イギリスは俯き、「嬉しくなんか、……ないに決まってるだろっ! ばかぁ」と呟く。声が震えている。悲しいのか、イギリスさん。っていうか馬鹿馬鹿言いすぎです。照れ隠し? 照れ隠しなの?
 アメリカがそんなイギリスを見て、「なんでだい?」と本当に不思議そうに訊く。




「ど、どうして、って、おまえ……!」

「俺は嬉しいけれどね」

「……はあ?」




 アメリカがあっけらかんに、そう言うとイギリスは顔を上げ、怪訝そうな表情とやっぱり怪訝そうな声で、呟く。
 そんなイギリスを見て、アメリカは「だって」と続ける。




「たった少しの人数に手紙を出すだけで、幸せになれるんだよ。素晴らしいことじゃないかっ!」

「……俺に、そういうの出すやつが少ないっていうのを知ってそういうのか」

「俺に出せる、にも出せる、日本にだって出せるし、フランスにも、中国にも、ドイツにも出せるじゃないか。いざとなったら、その……、なんだ? ユニコーンだっけ? それに出せば良いじゃないか」

「ゆ、ユニコーンに出せるわけないだろうがっ!」

「だけど、友達なんだろう? だったらそれぐらい、許してくれるさ。こういうのは、他人には余り出せないよ。友達や、親しい人じゃないとね」

「友達だけど、……、って」




 イギリスがアメリカを見上げる。なんですか、この展開。真面目に、邪魔じゃないか。しょうがない、此処は一つ、風景と一体化しよう。頑張るぜ! もう、なんかこう、凄い勢いで同一化するよ! 誰もわからないくらいに!

 イギリスが震えた声で、言葉を続けた。




「それ、って……」

「ああ、でも、俺にとってイギリスは無関心の存在、そこに居ても居なくても同じような感じだから! 変な誤解はしないでくれよ!」

「……っ! お、俺が何時、誤解したって言うんだよ! このばかー! もう、お前のところにはもう紅茶輸出しねええええー!!! お前のところから輸入もしないからなっ!」

「なっ、それは困るよ、イギリス!」

「お前に支援なんかしてやらねえからな!」

「良いさっ! 日本が助けてくれるから! 日本は優しいんだぞ、イギリスと違って!」

「お、俺だって優しいだろうが!」

「それにだって、俺のことを助けてくれるに決まってる! 残念だったね、イギリス!
 はここのところ毎日の様に俺に会いに来てくれるんだ! イギリスじゃなくて、俺に!」

「……ッ!」




 イギリスが、の方に近寄ってくる。あれ、背景と同一化したはずなのに、どうしてわかるの。
 そんな事を思いながら、ぽけぽけしていると、




「なんで俺のところに来ないんだよ!」




 ……怒鳴られた。え、いや、なんでって言われても、しょうがないじゃん、としか……。
 っていうか、最近こういうの多くない?




「な、なんで、って……」

「よりにもよって、こんな、アメリカのところに来て! 変だろ、おかしいだろっ!」

「そ、そんな事言われても……」

「こ、こんな奴なんかの傍に居たら、お前が危ないだろうが!」

「はははっ、ムッツリスケベが何を言うんだい」

「黙れアメリカ!」

「え、えーっと……、っていうか、イギリス、手紙の話をしていたんじゃないの? え、違うの?」

「手紙の話は……、別に、もういい」

「良くないよ! 全然良くないよ! さあ、二人で話し合って下さい、ファイト! は背景と同一化するから! ね!」

「ね! じゃなくて、……なんだよ、俺と話したくねーのかよ」

「そ、そういう訳じゃないし、寧ろ凄く話したいのだけれど……」

「だったら良いじゃねーか」

「……イギリス、が困っているじゃないか! こういう時こそ、ヒーローの出現だね!
 もちろん、俺がヒーロー、そしてイギリス、君が悪役だ! ちなみにはヒロイン!」

「お前は空気を読めえええええ!!!」




 イギリスが、近場にあったソファーからクッションを取り、物凄い速さで投げる。それはアメリカの顔に「ぼふっ」と言う音と共にぶつかった。
 イギリスはてっきり避けると思っていたのか、投げたポーズのまま固まる。も、同様だ。




「……イギリス」

「な、なんだよ、避けないのが悪いんだからな!」




 アメリカからクッションがずり落ちた。アメリカは「酷いじゃ無いか、イギリス!」と言いながら、足元にあるクッションを拾い上げ、猛スピードで投げる。
 それをイギリスが避ける。うん、まあ、後はわかるだろう。イギリスの後ろにはが居るわけだ。もちろん、クッションはに当たる。クッション、って柔らかいものだよね、普通。でも、に当たったクッションは鉛かと思うほどに硬かった。なんだこれは。

 っていうか、漫画でありがちじゃないか。この状況。主人公が投げた枕とかが、好きな子に誤って当たる。使い古されている。でも、正直、こういう状況って普通じゃありえないよね。そう思ってたんだけどな。
 顔に当たったクッションがずり落ちる。二人の唖然としている表情が目に入った。なんですかその表情。の方が唖然としているんですけれど。

 アメリカが「イギリスが避けるからいけないんだぞ!」とイギリスを責め立てる。なんという責任転嫁。
 イギリスは「しょ、しょうがないだろうが! 避けなきゃ当たってたんだから!」と逆ギレをする。

 っていうか、ちょっとは……心配とかしてくれても良いんじゃないでしょうか。

 下に落ちたクッションを拾い上げ、呆然と見つめる。が投げても、この二人のようなスピードは出ないし、どうせ軽く受け取られて終わるだろう。
 
 無言。あ、どうしよう、のせいで、こんな暗い雰囲気に。なんとかしなきゃな。
 クッションをもとあった場所に置いてから、アメリカに近づいて、イギリスが投げつけた手紙を貰いうけ、イギリスに渡した。

 イギリスが怪訝そうな表情を浮かべる。




「アメリカからの手紙じゃん、大事にしなよー」

「え、あ、ああ」

「本当は幸せなんでしょ? ふふん、わかってますよー、お姉さんはね!」

「……、し、幸せなわけが、」

! イギリスと話していたらムッツリスケベツンデレがうつるぞ!」

「だからお前は空気を読めえええええ!!!!」




 イギリスが叫ぶ。アメリカはそんなイギリスを見て、意地悪そうに笑みを浮かべた。




「ああ、頑張っているんだけれど、その本が見つからなくてさ。それよりもイギリス、イギリスこそ空気を読んだほうが良いと思うぞ!」

「……そりゃそうだろ。永久的に見つからねえよ。絶対にな! ちなみに俺は空気を読めているから!」

「ははは、変な台詞が聞こえてきたような気がするけれど、多分聞き間違いだろうね。で、イギリス、なんて?」

「ッ! こ、この、ばかぁー!!」




 なんだろう。今、少しわかった気がする。アメリカが、アメリカではなくアルフレッド、と書いたこと。
 二人の姿を見ながら、は知らず笑みを浮かべていた。





(終わり)


 何故アルフレッドと書いたのか、っていうこと。それはちょっと考えてみてください。いろいろな意味で取れると思います。ちなみに、アメリカ む ず か し い … !
幸せの手紙、って…あったんですけれど。私も地域では。どうなんだろう。他の地域ではないのでしょうか。ドキドキです。
イギリスもむずかしい。なんだろうツンデレって一体なんなんだろう。時代考証としては、まあ、何時でも良いですけれど、WW2が終わったあとが大前提。
よく、い抜き言葉が出てきますが、これは話し言葉で例えば「しゃべってるよ」ということは多いけれど、「しゃべっているよ」と言うのはすくないし、なんだかキャラ同士が喋っているのに、変な感じがしたので、故意に抜いています。誤解を招いたらすみません。

2007/07/17