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風邪なんて嫌いだ。 風邪を引かないヤツは馬鹿──というが、俺は風邪を引かない身体になれるのだったら、 馬鹿になっても良い。いや、馬鹿になったらそれこそ戦とかかなり大変だが、 まあ、戦を指揮するのは小十郎に任せればなんとかなるし──……。 一人ぶちぶちと文句を心の中で言い募る。 Act29.変わらない気持ち 「政宗様、やはり私の言う通りになされた方が良かったでは無いですか」 「う、うるせ……、小十郎うるせえ……」 「私としましては、政宗様が風邪を召される等、言語道断だと思っております。 仮にも、大名が、風邪ごときで倒れるとは……、情けないですぞ」 「う、るせ……。しょうがねえだろ、ほら、昔から言うじゃねぇか。 風邪は人類の敵、ってな」 「言いません。 ……まあ、熱は低いですから、寝ていたら治るかと。 大人しく寝てください、政宗様。これ以上熱が悪化したら──」 「わかった! わかったから、俺はもう寝るから、 Be back!」 「いいえ、戻りません。この小十郎めは、政宗さまのご病気が治られるまで、 お傍にお控えさせて頂きます」 「でえッ!? いや、それは遠慮させてくれ。頼む。 大丈夫。俺、大丈夫だから」 「……政宗様」 「Ah? ……ンだよ」 「眠ってくだされ」 そういって、小十郎は俺の被っている布団を顔まで上げた。 いや、何やってんだ小十郎。布団が顔に被さって息が上手く出来ない。 なんだ、小十郎。もしかしてお前は俺を暗殺しようとしているのか。 こんな間抜けな方法で俺は殺されるのか。 布団から顔を這い出して、「小十郎、ヤメロ」とでも言いたい気分なのだが、 そんな事するのも面倒臭かったし、それに布団の中が結構居心地良かったので、 俺はそのままにしておいた。 俺は、風邪を引いた。昨日、甲板に出ていたせいで。 俺の身体は、こんなにも貧弱だっただろうか。少しの間、風に当たっていたぐらいで、 熱が出るなんて。 小十郎も少し呆れながら、「全く……政宗様ともあろうものが」なんて、 ずっとぶつぶつ呟いている。 「政宗様、布団から顔を出してください。何をやっているんですか」 「……布団を顔にかぶせたのはお前だろうが」 「……」 愚痴をぽつりと呟くが、小十郎はそんな事、全く気にしていない様子で 頭の上に乗っていた布団を、どけて俺の頭に冷たい布を置いた。 水に濡れている。小十郎が濡らしてくれたのだろう。 「Thank you. 小十郎」 「いえ、……お礼を言うより早く寝てください」 「……っは、はは、ああ、そうだな」 目を瞑る。 するとうつってくる、甲板。 、と長曾我部。 手を、繋いで。 胸が痛む。痛い、とても。 酷く心に残る想いは、この思いはなんなのだろうか。 小さくため息を吐く。 俺が悪い。それはわかっている、けれど。 (嫌、だ) (が、他のヤツと居ると、嫌だ) 自分で思っておいて、なんだか嘲笑が浮かんでくる。 嘲って、悲しくなって、そして。 やりきれない気持ちが胸を、襲う──。 あんな、ところ 見せたくなかった。 俺の前で、笑顔を浮かべていて欲しかった。 でも、無理だ。そんなこと、今はもう。 違う、『今は』じゃない。今も、だ。 俺の心は手は、全て汚れていて、血がこびり付いていて。 その血は、どれだけ洗っても取れない。 その血が誰かにつくといけないから、誰にも触れない。 誰も愛せない。誰も、愛してくれない。 だれも、俺を。 「政宗様、小十郎めは水を換えてきますので、この場を離れますが……、 絶対に安静にしていてください」 「わか、ってる」 パタン、扉が閉まる音がする。 小十郎が居なくなって、直ぐ、頬に何かが伝った。 それは遠い日の記憶を乗せて、布団へと滲みた。 廊下を歩いていると、かなり先に小十郎さんが歩いているのが見えた。 なにやら、桶みたいな物を持って、早歩きでコチラへと向かってくる。 どうしたのだろうか。疑問に思って声をかけた。 「小十郎さん?」 「……ん? ……ええと、殿……でしょうか。 どうしました」 「あ、はい、そうです。 あの……何かあったのかな? と思いまして」 「いえ、何も、特に」 「あ、そうですか……。 あの、重ね重ねお尋ねしますけれど、政宗様を知りませんか?」 「政宗様、ですか?」 「はい。ちょっと、言いたいことがあって……」 そういうと、小十郎さんはを見据えて、「……政宗様なら、ご自分の部屋に居られます」と、言った。 その後、「只今、風邪を召されているので、部屋には入らないで下さい」と続けて。 風邪? 政宗が? 気付かなかった。気付けなかった。全然、会えなかったから気付くことも出来なかった。 ふと、哀しみを感じつつも疑問があった。なんで、小十郎さんは、の名前を。 は……、そのまあ、ゲームとかで見たことがあるから、わかるんだけど……。 その疑問は、どれだけ考えても答えが出なかったので、 は答えを出すため、小十郎さんに訊く事にした。 「あの、なんで、の名前を……?」 「政宗様が、貴方様の事を、良くお話しになられていましたので」 「政宗様が、の事を──?」 「ええ。 “はな、゛等、とても嬉しそうな顔で話されていました。 確か──ミサンガ、という物も、よく見せていただきました。青い色をした……。 それを見ては、政宗様は微笑を浮かべて居たので、印象に残っています」 「政宗…様、が」 は、馬鹿だ。馬鹿すぎて涙も出てこない。 あんなにも優しい人を突き放して、どうしたかったのだろう。 酷い言葉を発して、心を傷つけて。──馬鹿、だ。どうしようもない。 「小十郎、さん」 「なんでしょうか」 「あのっ、にも、政宗様を看病させて──」 「駄目です」 看病、して許してもらえるとは思わない、けれど、謝る機会が幾らでも出来る、はず。 謝って許してもらえるとも思わない、けれど、謝りたいんだ。 そう思って発した言葉は、直ぐに否定された。 唇が震える。なんで、だ。 疑問は口をついて出ていたようで、小十郎さんが眉を潜めて、返事を返してくれた。 「貴方は敵です」 「て、き……ですか」 「ええ。結果として、今は捕虜ですが、敵ではありませんか。違いますか? 貴方は政宗様に仕えていない──長曾我部に仕えているのでしょう?」 「そ、れは……」 「敵でしょう。違いますか? でしたら、政宗様の部屋に入れることは出来ません。 政宗様に危害を加える心配がありますから」 「政宗に、危害なんか、加えませんっ!」 「絶対に、とは言い切れないでしょう」 「絶対です! 危害なんか、加えません……ッ!」 「信じられません」 「なんで、ですかッ」 「何度でも言いましょう。貴方が敵だからです」 『敵』。その言葉が、ずしりと心に圧し掛かる。 ──違う、は敵じゃない。そう言っても、信じてもらえない。 どうしたら良いんだ。どうしたら、どうしたら。 「敵じゃ、無いです……」 「いいえ、貴方は政宗様の敵です」 「ッ、政宗……様の、敵……?」 理解が出来ない、頭がついていかない。 政宗はの大切な人だ。幸村も又。──その、大切な人の敵と言われるなんて。 思いも、しなかった。……考えも、しなかった。 悲しくて悲しくて、目頭が熱くなる。 こんな所で、泣きたくなんかない。絶対に、泣きたくなんか。 堪えて、声を発した。 「だ、ったら……、一言、伝えてください……」 「一言、ですか」 「お願いします。 ……ごめん、って伝えてください」 「……」 「本当に、お願いします!」 頭をおもいっきり下げる。 何でも良い、伝えてくれるなら土下座でもする。 今を逃すと、政宗に一生言葉を伝えられないような気がした。 小十郎さんは、そんなを一瞥して、横を通り、そのまま歩いていった。 扉が開く音がして、浅い眠りから目が覚めた。 小十郎が、「政宗様」と声をかけてくる。其れにかすれた声で「……ん?」と返す。 「……伝言、です」 「伝言? なんだよそれ。まあ、良い。言ってみろ」 「ごめん」 「……?」 「それだけです」 「誰から、だ」 「殿から」 「……っ、、から?」 その言葉に反応して、思い切り上体を起こす。 から、『ごめん』。その言葉の意味は、考えるべくも無い。 布団から出て、ふらふらとする足取りで、部屋から出た。 小十郎が「政宗様!」と制止の声をかけてくるが、気にしない。 は、何処だ。 与えられた部屋に居るのだろうか。船は大きい。探すには時間がかかる。 小十郎が俺の肩を掴んで、「安静にしてくだされ!」と言って、無理やり部屋に入れようとするが、なんとか振り払う。 「小十郎、は何処だ。は、何処だっ!?」 「そ、んなこと、知りませぬ! それよりも、政宗様……」 「それよりも、じゃなくて、を、が、」 ぐにゃりと、視界が歪んで、その場で倒れそうになったが、何とか持ち直しす。 小十郎が小さな声で「何故、あんな女にそこまで………」と呟くのが聴こえた。 何故だろう。わからない。 俺は、の笑顔が、声が、好きだ。それだけじゃ駄目なのだろうか。 小十郎が舌打ちをして、「殿を、連れてきますから、此処でお待ち下さい」と言い、 走っていく。 その背中を見送って、俺は額に滲んだ汗を拭った。 風邪だから。直ぐに息切れするし、立っているのも辛い。 けれど、何故だろう。会いたい。とても、会いたい。 会って、言いたい言葉があるんだ。 少しして、小十郎はの手を引いて、コチラへと早足で歩いてきた。 が、俺の存在に気付いて、驚いたような顔を見せた。 「ま、政宗ッ!? ど、どうしたの。風邪でしょ? 寝なきゃいけないんじゃ……」 「……なあ、」 「顔も赤いし、大丈夫? 本当に。冷えピタあればよかったのに……!」 「……」 「ん? 何?」 「お前の、言葉、ちゃんと聴いた。 俺からも、……ごめん」 「そっ……。が悪いんだよ。が、悪いから……。 ごめん、本当にごめんなさい」 「──っ、は、ははっ」 「……? どうしたの、政宗」 「お前に嫌われたと、思った」 「……っ」 「でも、お前は俺の事──好きなんだろ?」 「すっ!? いや、あの……うん、好きだよ」 「だったら、良い」 「良いって……」 「俺ものこと、」 好きだ。 そう言おうとした時、急激に眩暈がして、その後の事は良く覚えていない。 ただ、誰かにもたれかかった気がする。 汚れた手は、ずっと汚れたままだ。 けれど、そんな汚れたままでも良い。そう言ってくれる人が現れたら。 俺は、きっと。 →NEXT −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 好き好き好き好きってもう本当なにこれ!恥ずかしいッ!! 政宗は心に酷い傷を負っております。その事もいつか書きたい。 小十郎の性格を書き直して。ストーリー自体も書き直していったら、なんか変わった。(何) 2006.10.20 |