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Act40.薄れていく 夕焼け色。…とは言えない、黄色がかった光が障子の色を染める。 今さっき、が駈けて行った方を呆然と見つめていた。 なんで、あんな、顔。 泣きそうな表情を浮かべていた。 何かあったか。そう聞いたら、空元気になって、なんにもないよ!と言っていた。 嘘を吐け。何かあったんだろう。だから逃げたんだろうが。 だから、視線を…合わしてくれなかったんだろ? 小十郎に視線を合わせる。なんの表情も浮かんでいない。 「…なあ、小十郎。お前、に何かしたか?」 「……、何か、と言いますと?」 「例えば、酷い言葉を、言ったか?」 「……」 俺がそう訊くと、小十郎は押し黙った。 言ったのか。そうなのか?なあ、小十郎 ───! 肩をつかむ。 「なあ!小十郎、何を言ったんだ?」 「…政宗様が、気にかけるような言葉は申しておりませぬ」 「はあ?何言ってんだお前。はやく、言え!」 俺がそう強要すると、小十郎は言った。 表情を崩さずに。 「── お前が、嫌いだ」 「…そう、言ったのか…」 「はい」 「な、なんでだよ…」 「…、そう、思ったからですが」 何 言ってるんだ コイツ。 何言ってるんだ、何を言ってるんだよ! 「…お前は…、馬鹿か」 「何故ですか」 「馬鹿、だろ…、なんで、なんで!そんな事言うんだッ!!? 嫌い…なんて、言われて嫌な奴が居ることぐらい、わかるだろ!?」 「はい、わかっております」 「あいつは、恩人と言っても過言じゃ無い、俺を助けてくれた! それなのに、お前は…ッ!」 「自業自得ではありませんか?あやつにとって」 「な、にを……」 「覚えておりますか。長曾我部を攻めた時。あの女子は何といいましたか?貴方に」 「……」 「拒絶したと、聞いております」 それによって、政宗様が傷付いたとも、聞いております。 と、小十郎は続けた。 だから、なんだよ。 昔は、昔で。今は今だ。は、あの後、俺に謝ってくれた。 もう、良い。もう良いんだ、あのことは。 もう一度仲良くなりたいと、言ってくれた。 笑顔を見せてくれた。話せた。幸せだった。それなのに。 「…お前は…!!!!!」 笑顔が 見れなくなるかもしれない台詞を吐いて、 傷つけて。泣かせて。 一体、何がしたいんだ。 思わず、肩を持った手に力を込めてしまった。 手が赤くなっている。どれだけ、強く握っているのだろう。 小十郎は表情を崩さずに言葉を発した。 「……仁に過ぐれば、弱くなる」 「な、にを…」 「義に過ぐれば、固くなる」 「小十郎」 「礼に過ぐれば、諂いとなる」 「…小十郎」 「智に過ぐれば、嘘をつく」 「やめろ、小十郎…!」 「信に過ぐれば、損をする」 「やめろ、小十郎!!!!」 声を荒げる。 そんな事、気にも留めずに、小十郎は冷静な面持ちを崩さず、 「貴方様のお言葉です」と言った。 「I know.」 「他人と、必要以上、親しくしてはいけません。 弱くなるからです」 「……」 俺の顔を見据え、小十郎は小さく、だけど、しっかりと耳に届くような音量で言葉を発した。 「政宗様は、弱くなられました」 手の力が弱まる。 俺が、弱くなった?何を言っているんだ。 俺が呆然としている表情を浮かべているからか、小十郎は間を置いて、説明するように、ゆっくりと言葉を紡いだ。 「太刀筋が乱れています。隙が多い。…相手を殺すのに、ためらいをお持ちになられました」 何で、そんな事。言おうとした。けれど、いえなかった。 何故だろう、言葉が出てこなかった。喉から、かすれたような声しか出なかった。 無言が続く。 小十郎が「それでは」と言って、その場を去った。 正論、なのだろうか。わからない。 何があっていて、何があっていないのかさえも、 わからない。 自分で言った言葉。自分で決めた教訓だ。 それなのに。 ぐ、と拳を握った。 こんな、コトしている場合じゃ無い。 それよりも、…を探さなければならない。 きっと、傷付いているであろうを。 確か、あっちの方向に駆けていった。 の走っていった方向に向かって、走り出した。 は直ぐに見つかった。 あの、武田の忍びと一緒に。 うつろな表情で、忍びの話を聞いている。 風に乗って、俺のところにも聞こえてきた。 「…要らないよねえ?感情なんて!」 一瞬、息が止まった。 ──あの忍びは、何を言っている。 感情が、要らない?訳がわからない。 、なんか言えよ。要るだろ? 要るって、言え。 願いもむなしく、はずっと座っている。何も言わずに。 「感情を無くして、生きるのって、簡単だよ。凄く。 なんにも感じなくて良いんだよ。苦しいこと、哀しいこと、痛いこと、すべて、すべて」 が、佐助の言葉に反応して、小さく口を動かす。 かすかな声、聞こえた。 「は…、感情は……い」 「!」 いらない。そういうつもりだったのだろう。 声を荒げて制止した俺の方を向いて、は驚いたような表情を浮かべている。 「政宗さん…」 「感情なんて要らない…、なんて言うな!」 「まさ、」 「感情は必要だろうが!感情があるから心から笑えるんだ!」 「政宗さん」 の肩を掴む。一瞬、体が驚いたのか、はねた。 「お前が、小十郎からなんていわれたかは知っている。聞いたからな。 だからと言って、感情を無くすだあ?HA!馬鹿な事言ってんじゃねェよ!」 「…政宗さんには、わかんないよ」 「あーあー!わかんねェよ!感情を要らないって言うヤツの事なんかな! お前が何で、そんな結論に行ったのかも、わからねぇ」 が悲痛そうな表情を浮かべた。 「…感情があるから、泣ける。笑える。怒ることが出来る。 なあ…、お願いだから、そんな事…言うなよ……」 声が震えた。ずるずると肩を掴んでいた手が下へと落ちる。 の姿に昔の自分を見た。 痛いことを言われた。哀しくなった。死にたくなった。 なんで俺ばかり。そう思った。けれど、それは間違いだと、わかった。 支えてくれる人が。 小十郎達が、ずっと傍に居てくれたから、だ。 忍びが、小さな言葉で何か呟いたと思ったら、その場から消えるように居なくなってしまった。 『感情が無くて、楽なのは本当の事だよ。 要るか、要らないか。最後に決めるのは、ちゃん自身だからね』 そう呟いていた。 誰が何を言っても、最後に決断するのは、全て自分だ。 俺が何を言っても、が決断したことは、変えられない。 何でかわからないけれど、 小十郎の言葉がよぎった。 『政宗様は、弱くなられました』 俺は、弱い。 →NEXT −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− うん…。どうしたんだ小十郎。なんでそんな事を言う小十郎。怖いよ小十郎!みたいな。 今回は…伊達視点で書きました。難しいなあ。というか、なんで皆こんな暗いんだろう。恐怖のループ。 ちなみに途中で出てきたあの智に〜とか仁に〜とかは、政宗の遺訓です。 |