視線を感じる。
──目で、射殺される! って、本当にあるんだ。いや、冗談ではなく、本当に。
それくらい熱い視線で見られております。誰かー助けてー。




Act44.違う、ちがう 2




政宗さんに朝ごはん一緒に食べようぜ! と誘われてしまった。
とてつもなく、この上なく! 幸せな事なので、すぐに返事をした。
もちろん、「うん! 食べよう食べよう」と。

慶次も、の横から「俺も良いか?」と訊いて、政宗に快く承諾されていた。

なんだか頬が緩む。政宗と慶次と一緒に御飯かあ……。幸せだ。
あー、粗相のないよう、気をつけないとなあ……。まあ、普段通りに食べたら大丈夫か。うん。
そんな事を考えていた、ら。


なにかに見られているような気がした。
見れば、政宗の後ろに構えている小十郎さんが、とてつもなく鋭い目で、
を睨んでいる。


こ、こわっ! え、何この射殺さんばかりの目は。止めてください、本当に。
熱いっ。熱い視線……!何それ、そんなもん要りません。

視線が合う。
ヒイイ視線、合っちゃったよ! どうする、どうなる、
三択だ。『逃げる』・『逃げない』・『死んだフリをする』
……最後の選択肢はありえないよね……。

何も出来ずに、その場で立ちすくむ。視線も逸らせない。


頭がパニック状態だ。誰か、助けて。
そんな事を心の中で必死に願っていたとき。小十郎さんは ふ、と目を逸らした。


の願い、神様 仏様に届いた……! とか、
ひとりで感動しそうになった時、小十郎さんを見ていた目が捕らえた、
小十郎さんの一筋の目の陰り。


小十郎さんの表情が、少し暗くなったように見えた。
……見えた、だけだから 本当は小十郎さんにとって、とてつもなく明るい顔だったのかも知れないけれど。
少しだけ 気になった。






政宗に急かされるようにして、その場から離れ、食堂へと赴いた。
でかい部屋、……畳が敷き詰められている部屋に、お膳が並べられていて。
政宗が「は俺の左横、小十郎は右横な。前田は……まあ、何処にでも座れよ」と、言葉を紡ぐ。

すると慶次が、「じゃっ、俺はの隣ということで」と、弾んだ声を出して、の隣に来る。

政宗が座ったので、も、おずおずと左横に座る。
周りのふたりも座り、政宗が「いただきます」と言おうとして、
手を合わせた時、障子が開き、見知った人々が入ってきた。




「おっ、こんなところに居たのか、


「三人で探していたのだぞ」


「そうでござるよ! も、もし、殿の身に何かあったらと想うと眠れなくて……っ!」


「元親、元就、幸村っ。
 え、なに、三人も御飯食べに来たの?」


「そうでござる!」




そう言って、幸村がにっこりと笑う。
それに続けて、元親・元就もこっくりと頷いた。
政宗が「ふうん、じゃあ、まあ、座れよ」と、促すと、
三人はそれぞれ、お膳の前に座った。

政宗が「じゃ、いただきます」と、言う。
政宗の声に続けて、皆が「いただきます」と、手を合わせて、言う。

皆が御飯を食べ始めたのを見て、も箸を御飯に伸ばす。
うわ、美味しいなあ。なんじゃこの美味しさ。たまらん。
誰が作ったんだろう。政宗?……じゃ、ないよなあ。今さっきまで一緒に居たんだし。

もぐもぐと口を動かしながら考える。

だとしたら……女官さん? ん? 戦国時代ではなんて言うんだ。
召使い……? 違うよなあ。あれ、なんだったっけ。女房?

そんな事を真剣に考えながら、ご飯に箸を伸ばす──と。
横からヒョイっと出てきた他の箸が視界に映る。へ? なに。 と思う暇もなく、
その箸は、が食べようとしていたおかずを掠め取っていった。


瞬間、唖然とした。
え……なにごと。お、おかず……一品少なくなったんだけど。
ちょっ! な、なにをするんだ、この……!




「慶次っ!」


「んー? なんだよ?」


「ちょっ、今さっき、のおかず盗んだよね!
盗んでませんーとか言う言い訳は要りませんよ!」


「なっ、お前……どうした。
まあ、なんて言うの? いいじゃねえか、な! 減るもんでも無いし」


「減るから! 存在、無くなっちゃったから!」


「まあ、気にすんなよ! な!」


「いや、気にするから! せ、折角、後で食べようとしていたのに……っ」


「え? 残してたし、手もつけてなかったから、食わないかと思った」


「残してないしっ! 酷い、乙女のマイスウィートハートを傷つけましたね!」


「ま、まい、すうい……?
 まあ、ほら、あんまり小さい事、ぐちぐち言ってたら、でっかくなれねぇぞ!」


「ならなくて良いし!」




そこまで言ったとき、は周囲の静けさに気付いた。
周りを見ると、皆が呆然とした表情を浮かべて、こちらを見てくる。
え。 何。 


元親は「あ、あー……、その、なんつうか」なんて、気まずそうな声を出す。
元就は呆然とこちらを見てくる。箸を持った手が空中で止まっている。
小十郎さんはなにやらこっちを睨んできた。怖。

幸村が「そっ、その! 某のおかず、差し上げましょうか?」と訊いてきて。
政宗も「……お、俺のも……やろうか?」なんて言ってきて。


え。何この雰囲気。


ふたりに「……いや、良いよ、その、……すいません」と、情けない声を出して、
ご飯を食べるのを続けた。皆も、少しギクシャクしながらも、ご飯を食べるのを再開した。

本当に、なんだこの雰囲気。



絶対、がめついって思われた。が、がめつい、がめつい、がめつっ……。
け、慶次のせいだ……。 くっそう、いつか仕返しを……! え、なに。もしかしてお門違いか。
は心の奥底で、一人そんな事を考えていた。


少ししてから、政宗が「美味いか?」と訊いてきた。
それに、「うん、美味しいよ!いや、本当に」と答えると、
政宗は満足そうに笑みを浮かべ、「そうか」と言葉を紡いだ。

その笑みが、とても優しいものだったから、も思わず笑顔を浮かべてしまう。
まあ、その幸せも長くは続かなかった。

突き刺さってくる視線。──小十郎さんのものだ。
なに。そんなにが政宗と話しているのが気に入りませんか。
『政宗様と話しおって! キイー!』なんて、思ってるんですか。思ってませんか、そうですか。


なんだか、頭の中にハンカチを噛んで地団駄を踏んでいる小十郎さんの映像が浮かんだ。
いやいや、ありえないから! 何考えてるんだろう。
自分の想像を頭の中で打ち消して、はご飯を食べ終えることに専念した。

御飯を食べ終え、「ごちそうさま!」と言って、他の皆がしていた様に、その場から立ち去ろうとすると、
まだ御飯を食べている幸村が「殿!」と声をかけてきた。




「某の部屋で、その、某が御飯を食べ終えるまで、少し待っていてはくださりませぬかっ」


「ん? ん、わかったー。でも、なんで?」


「ええと、そのっ、某とっ……。
 後で、じょ、城下町に……っ


「んー? ごめん、聞こえなかった。なんて?」


「なっ、なんでもないでござるよ!
 そ、某、直ぐ御飯を食べて行きます故!待っていて下され!」




が聞き返すと、幸村は顔を真っ赤にさせ、
手を目の前でブンブンと振った。おおおう、どうした、幸村。何があった幸村。

は「わかった。待ってるね」と答えて、食堂を出て幸村の部屋へ向かった。
一応……少し……というかかなり、迷いそうになったけれど、なんとかたどり着いた。助かった。
迷ったらどうしようかと思った。

ふう、と一息ついて、そこらへんに座ったとき。
目の前に何か──誰かが、降りてきた。笑顔を、浮かべて。




「……さ、すけ」


「やっほ、ちゃん」


「え、ええっ、あれ、何処に居たの?」


「天井」


「て、天井ッスか……」


「そうそう、忍びってなかなか大変でさ、
 隠密行動しなきゃいけない訳だから、人目につかないように、
 人一倍 気を使わなくちゃいけないんだよね」


「へ、へえ……」


「気配も消さなきゃいけないし……、ホント、面倒臭い」
 


「そ、そうですか……」




佐助は苦笑を顔に浮かべて、ずっとグチグチと仕事についての文句を言う。
え、急に現れて急に愚痴られて……、はどうすれば良いんだ。

相槌を打ちながら、佐助の話に耳を傾ける。
『忍びって大変だよー』、『あーあ、真田の旦那も、もうちょっと危機感持てば良いのに!』等、
いろいろな話を佐助は少しの間、話した。


な、何を言いたいんだ、佐助は……!!
心の中にそんな疑問が生まれてきた頃、佐助は「それだけ」と言って、話を終わらせた。
笑顔が浮かんでいる。

そ、……それだけ? ど、どういう意味──
そんなの疑問を感じ取ったのか、佐助は顔に苦笑を浮かべて、言葉を続けた。




「ちょっと言いたかっただけだから。気にしないでよね」


「……言いたかった、って……、
 今さっきのちょっとした、愚痴?」


「そうそう。本当は、他のことを話そうと思ったんだけどさ。
 ちょっと違う話に走っちゃったね」


「他のこと?」


「そう。でも、時期尚早かな。考える時間って、やっぱ必要だよね」




佐助は考えるような仕草を取る。

他のことって、昨日のことを言おうとしているのだろうか。
だとしたら、の本心はまだ決まっていないのかも知れない。
無くなったほうがいいのか、有ったほうがいいのか。
は、まだ判断できていないのかも知れない。

は、自分の気持ちが、よくわからない。
今も、きっと、ずっと。

佐助が口を開こうと、何かを言おうとした時。
ドタドタ、という誰かが走る音が聞こえ、閉まっていた障子が、凄い勢いで開いた。
何事か、と目を障子の方に向けると、其処には息を荒くしながら立っている幸村が居た。


佐助が、「うわー、旦那、どうしたの」と、少し笑いを含んだ声を出して、幸村に近寄る。
幸村はそれに「な、なんでもないでござる……」と言葉を返して、顔を上げ、を見た。




殿……、そ、そそ、某と共に……っ」


「うん」


「で、出かけませぬかっ!?」





かなりの間を置いてから、幸村は早口にそう言った。
そして、焦ったように「その、嫌でしたら良いのですがっ」と言葉を続けた。
嫌なわけがない。 幸村と出かけられるなんて幸せだ。




「もちろん、出かけるよ! 出かけようっ!」


「……あ、有難うございまするーッ!!
 某、本当に嬉しいでござるよっ、佐助っ、ちょっと出かけてくる!
帰りは……ええと、陽の沈む頃には帰るぞ!」


「え、ああ、うん。どうぞどうぞ、いってらっしゃーい」


殿っ、出かけましょうぞ! 今すぐ!
時間が惜しゅうございます」


「あ、うん。そうだね、でかけよっか」




幸村が、これ以上無い! というぐらいの笑顔を浮かべながら、
さっさと出かける準備を始める。ゆ、幸村……感心します、本当に。

かなり嬉しそうにしている幸村を見て、佐助が一言「……旦那、春だねえ」と、
ポツリと呟いていた。春……。小鳥は囀り、野山に花が咲く春ですか。


……なんか見当違いの事を考えてしまった。違うよね、そういう意味じゃ無いよね。
って事は、……恋、かな。青い春ですか。キャー。素敵ー。


出かけるってことは、どっかに行くわけだから、其処に幸村のお目当ての人が居たりする訳か。
おおおう、幸村、凄く青春してる。青い春、真っ最中じゃん! 素敵だ。
道中、聞いちゃおうかなー、ねえ、幸村、誰か好きな人居る?とか。

幸村が「そ、それでは行きましょうぞっ」と言って、に手を差し出す。
も手を差し出して、幸村の手を握った。


密かな野望を胸に、 と幸村は城の外へと出かけた。



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……幸村とデート。(違)
幸村の出番が全くないことに気付き、この話に入れましたー。
次の話は甘くさせたい。そして、佐助との話も早く決着させたい。
小十郎の話も、早く決着させたい……! 宜しければ今後も是非お付き合い願います。

2005.9.30