きっと、ずっと、想っていた。
芽生えた気持ちは、止まることを知らず。
走り出した感情は、咲き綻んだ花のように、いつしか満開になっていく。

この手の持つすべてのものは、
全て、彼女を守るために。



Act.44−3 ちがう、違う






幸村と共に城下町。今日は市が立つ日では無いらしく、
人通りもまばらだ。でも、それでも、何故か町は明るく見えた。

それはきっと、どの人達もが皆、笑顔を浮かべているからなんだろうな。多分。




「幸村、何処に行くの?」


「え、ええと、某が良く通っている、茶店へ!」


「茶店かー、良いねー、風流だねー」


「そうでござるなー。
 とても、団子も茶も……美味しくて、某のお勧めの茶店でござる!」


「うっひゃー! 幸村のお勧めかあ。
 なにやら、良いねっ。そういうの!」




そう言うと、幸村が笑顔を浮かべた。少し、照れくさそうな、笑み──。
その後、何かを思い出したように「あ」と呟いて、言葉を続けた。




「でも、殿は良く、団子を食べているから……
 飽きましたか?」


「団子、よくって程じゃ無いけど……。飽きては無いよ?」


「そ、そうでござるか?
 ですが……、ええと、」




軽く繋がれていた手、それは幸村が考えるような仕草を取るとき、離れた。
少し寂しかったけれど、気持ちを取り直すことにした。

団子……団子で、良いんだけどな。好きだし。美味しいし。
けれど、幸村は今、に団子以外のお菓子を食べさせようとしているらしく。
なんだかうんうん唸って考えている様子が、とても微笑ましくて──。
少し、そのままで居た。


が町の様子を見渡していると、人々が歩いていく中、少年がこけたのが見えた。
何かにつまずいたんだろう、きっと。…顔から地面にスライディングだ。
かなり痛いと思う。

少年は、こけたまま、ずっと地面とくっついている。
どうしたんだろうか。もしや地面と添い遂げるつもりだろうか。
そんな事を思いつつ、は何だか無意識にその子の近くにより、肩をつかんで立たせた。


パンパンと叩いて、少年の衣服についた土を払い落とす。
その子は、とても驚いたような顔をしていた。まあ、そりゃそうだよね。

衣服が少し綺麗になった所で、少年がに声をかけてきた。




「ねえ、お姉さん、ありがと」


「ん? ああ、どういたしまして。
 大丈夫? それにしても良く泣かなかったねー、だったら泣いてた。うんうん」




がそう言うと、少年……多分、年の功、6,7歳ぐらいの男の子は、
とても嬉しそうに笑って、「大丈夫! だって俺、強いもん」と言った。




「へえ、強いんだ……、凄いね!
 んじゃ、次からは転ばないように、気をつけて歩こうね」


「えっへへ……。
 うん、気をつけるよー! んじゃ、お姉さん、さよーならーッ」




がそう、少し注意を呼びかけると、男の子は又、嬉しそうに笑って。
大きく頭を縦に振り、その場を足早に立ち去っていった。元気だな……。にその元気を分けてくれ。

その男の子の背中を見送りつつ、『ありがとう』と、はっきりとお礼を述べられたことに、
少しの嬉しさを感じていると、幸村が声をかけてきた。




「──殿は、とても優しゅうござりますな」


「んー? そうかな、普通ぐらいだよ」


「いいえ、おのこが倒れていたとき、助けてさしあげた。
 そういうことが、出来るのは──優しい心を持つ人だけでござろう?」


「いやいや、幸村だってするでしょ?
 目の前でさ、人が豪快に転んだら……。幸村、優しいし」


「……どうでござろうか」




幸村は、少し、哀しそうな表情を浮かべ、呟いた。
瞳に、深い暗闇の色をたたえている──深い、淀みのような、そんな色。
いつもの幸村とは全然違う雰囲気に、少し驚いた。




「ゆ、きむら?」


「町中で人が転んだら──、助けましょう。
 ですが、戦中に人が転んだら、助けませぬ。転んだのが敵だったら、なおさら」


「や、幸村……どうしたの」


「その様な者を、優しいと、言えますか?」




少し、恐怖を感じた。……幸村に。
哀しい、辛い、儚さ、……そんなようなものを、幸村の口調から感じ取った。

戦場で、敵が転んだら、幸村は。
──どうするの? なんて、愚問だろう。

その手に持った槍で、刀で、人を刺す。殺す。
守るべき人を守るために。生きるために。




「でも、…幸村は……優しいよ」


「……なんででござるか」


「なんでか、わかんないけど……、は、そう思う」




だって、は。
少しの間だったけど、幸村と、政宗と、一緒に暮らして。




「幸村の良いところ、優しいところ、知ってるから」




見せ掛けではない、幸村を、少しは知っていると思っても良いのだろうか。
優しいところ、良いところ、……悪いところ、は、少しは知っているつもりだ。
たとえ、見せ掛けだとしても、それはにとっての真実。

幸村は少し面食らったような表情を浮かべてから、
……少し、微笑んだ。と思う。
哀しみと、切なさと、色々な感情がつまった、微笑み。

少し、胸が痛むような感じがした。




「有難うございまする。
 ……話を、変えますが、殿……、せんべいはどうでござろうか」


「せんべい? うわ、良いね良いねっ」


「好きでござるか?」


「うん、好きだなあ。好き」


「そ、そうでござるか。それなら、買いに行きましょうぞ」




せんべいを食べよう、と言う提案にとても喜んで同意すると、
心なしか少し幸村が顔を赤くして、少し、どもった。

なんでだろう、と思ったけれど、訊かずに、は幸村と共に歩き出した。
幸村が「離れては……怖いですし、」と言って、に手を差し伸べる。
その手をは「そうだね、ありがとう」と言って、掴んだ。


手を繋ぐ、という行為。
手と手を合わせるだけ──それだけ、だけど。
何故だろうか、とても幸せに思えた。頬が、いつの間にか緩んでしまう。

手から伝わる相手の体温、そういったものが、自分に安心を与えてくれる。
今は……、この手から伝わる幸せを、噛み締めていたい。











せんべいはどうですか。
そう訊いたとき、好き、好き。と繰り返された。
せんべいの事を言っているのに、自分に言われたようで少し胸が高鳴った。

心の臓はいつも、素直だ。
幸せなときには弾むように命を刻む。
哀しいときには重く命を刻む。
恋しい人と共にある時、とても激しく命を刻む。


某もこのように、素直になれたら良いのに、と思う。
人と共にあることに、喜びを見出せたら良いのに、とも思う。

柄にも、ないことを、と思う。けれど考えてしまうのは。
それは、きっと、繋がれている手の持ち主が、とても優しい人だから。
そして、とても愛おしく、狂おしい人だから。


手を差し伸べたとき、(某は、馬鹿だ)と思った。
今になって、思い知る。某と、殿は違う。

人を殺して生きてきた手と、
人を殺さずに生きてきた手。

相容れないものだと、思った。


考え直して、引っ込めようと思った手。
けれど、殿は掴んできた。
その時、又思った。


彼女は、とても優しいから。
手を繋ぐという行為を、躊躇うことなくする。

繋いでいる相手が、人を殺していたとしても。
『いいところを知っているから』と、手を繋ぐ。


泣きそうになった。嬉しくなった。
哀しくなった。幸せを感じた。

某は、殿が、殿のことが、とても。
──大好きで。愛おしくて。守りたい存在で。


とてもとても、
どうしようもなく、
大切な『ひと』なんだ。




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短い。幸村とのデートはまだ続く。
幸村が自覚したんですね、やっと。多分。
これから幸村の空回りが多分良く見れるかと。何をやっても良くいかない幸村。
美味しいところを取られる幸村。頑張れ幸村。皆が君を待ってるよ(多分)。

おのこは男って意味です。戦国時代に使われていたかは定かでは……。でも幸村なんか言いそう。
せんべいは、かなり前からあったそうなので出しました。平安だったか江戸だったか、どっちか。
市は立つ日が決まっているので、そう毎日あっちゃ堪んねェよ!みたいな。
修正したら全く別の話になったという。なんだこれ。でも、頑張りました。
色々これからも悩ませたいー。悩んで悩んで頑張っていくところを書きたい。そういう人です。

2006.10.14