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辛いことがあった 悲しいことがあった 乗り越えるのは、自分だ 自分以外の誰にも、自分の受けた哀しみも苦しみも辛さも、 すべて、乗り越えることは出来ない 自分で、乗り越える Act46.伊達三傑 小十郎に手を引かれ、つれていかれた場所は襖の前だった。 よく、時代劇とかで見るような、素晴らしく美しい装飾が施されている襖──。 開けていいのかな、と思いつつ小十郎を仰ぎ見ると、小十郎はなにやら襖の前に正座をしながら に「お前も正座をしろ」と声をかけてきた。 なんで、どうして、急に正座? なんて思ったのだけれど、小十郎から有無を言わさぬ雰囲気が漂ってきていたから、 も小十郎に習って、正座をする。 「政宗様、入っても宜しいでしょうか」 「ん? ああ、小十郎か! いいぜ、入って来い」 「それでは……」 小十郎が引き手に手を沿え、音を立てぬように、ゆっくりと襖を開けた。 ──大きな、部屋。そう思った。 床板が、敷き詰めてある。いや、敷き詰めてあるっていう表現は変なのかもしれない。 政宗の座っている所は床板ではなく、なんだか他よりも一段高い、畳座。 胡坐をかいて座っている政宗の後ろには綺麗な装飾を施した屏風があり、なんだか圧巻した。 なんで、だろう。やっぱり、政宗はお殿様なんだ、と再度確認したからだろうか。 いつもの様な、気安い雰囲気ではなく、本当に、言葉を話すことも躊躇われるような雰囲気。 そういうのを、政宗が纏っていたからかも知れない。 小十郎が頭を下げる。も其れに習って、慌てて頭を伏せた。 少しして、政宗の、笑いをかみ殺したような声が、聴こえた。 「、小十郎はともかく、お前はそんなこと、しなくていいぜ?」 そんなこと、言われたって……、どうですか。郷に入っては郷に従え、って言うし。 他の人が頭さげるなか、だけ下げないって……、なんか、駄目だ。 返答に困っていると、政宗が「……面を、上げろ」と、苦笑気味の声で言葉を紡いだ。 横で、小十郎が顔を上げる気配がしたので、も顔を上げる。 「失礼致します」 「ああ」 小十郎が正座から立ち上がり、広間の中へと入っていく。 も「失礼いたします……」なんて、少し小さな声で、けれど一応はしっかりと、聴こえるように言ってから、 広間へと入っていった。 色々な人の視線が突き刺さる。 床板に座っている、多分……政宗の、伊達家の配下武将の人々からの視線だ。 そりゃそうだよね。急に入ってきやがって、おまえ、誰ですか、みたいなそんな感じか。 だんだんと俯いていきそうになる顔。少しずつ震えていく手。 なんていうか、怖い。何でだろう──、拒絶されている、と感じているからなのかもしれない。 あからさまに睨まれると、なんだか泣きそうになるんだ。無性に。 小十郎が政宗の前で正座をしたので、も習って正座をした。 小十郎が、政宗の方を見据えながら、しっかりとした声で「政宗様……」と言うと、政宗は「なんだ?」と言って、 小十郎の方へと身体を近づけた。小十郎が政宗に何かを耳打ちする。 少ししてから、政宗は小十郎から身体を離し、「……Thank you,小十郎」と、苦笑いを浮かべながら言った。 何を話したのかは知らない、けれど……なんか、いやな感じがしたのは、気の所為だろうか。 政宗がの方にも近づいてきて、「」と声を掛けてくる。 何かを、返さなくては。そう思ったけれど、なんていえば良いのか、はっきり言って全然わかんなくて、 小さな、蚊のなくような声で「……な、んでしょうか」と返すことしか出来なかった。 なんでしょうか、って、何言ってるんだろう、は。 心の中で自分を責めていると、政宗が「……」ともう一度、 とても優しい声での名前を呼んで、の頭を優しく、一度だけ撫でた。 撫でられた瞬間、すごく驚いては思わず政宗の顔をまじまじと見てしまった。 政宗は、とても優しげな笑みを浮かべていた。 はっきりいって、撫でられた瞬間よりも、すごく驚いてしまったから、は凄い変な顔をしてしまったのだろうと思う。 ってか、断定できる。した。絶対に変な顔をしてしまった。 していなかったらの前に居る人は、笑いをこらえてなんか無い。 おい、そんなに可笑しい顔をしましたか、は。ってか、女の子の顔を見て笑うとか、ひどくないですか。 言いたい文句は山ほどあるけれど、流石に、この場でいう事も出来ず。 いつか、いつか……! 絶対、額に肉って書いてやる! 『センスが古い』とか、『お前の生まれた時代何時だよ』とか、そういう事を言っている場合ではない。 いいじゃないですか。生まれたからには一度してみたい、悪戯じゃん。 あ、でも、ここには油性ペンが無いのか……。どうしよう、何で書こう。筆? 筆で、でっかく肉とか書いたら……駄目だ、なんか勇ましい感じがする。なんか強そうな感じがする。 ……意識が変な方向へと言ってしまった。何考えているんだろう、自分。 こんなこと、考えている場合じゃ無いのに──。 政宗がぱん、と手を叩く。しん、としていた広間の中に、その音はとても強く響いた。 広間の中に居る全ての人が、政宗に視線を向けた。 「── 小十郎、鬼庭、、成実以外、広間から出て行ってくれ」 伊達の声が広間に響く。一瞬ざわめいたけれど、それは直ぐに収まり、 少しずつ、人々が広間から出て行った。 と、鬼庭さん、と小十郎と成実さん、と政宗以外、広間に居なくなったころ、 一人の男の人が、の方へ近づいてきて、笑みを浮かべた。 誰だろう、この人。なんて、思いながらも笑みを浮かべた。 男の人が口を開く。 「さん。 俺は、伊達成実と申します。よろしくお願いしますね」 「あ、こんにちは……、成実さん。よろしくお願いします」 「こんにちは。 畏まった言葉で喋らなくて良いですよ。 そうですね、殿と話している時と同じくらいの親しさで話してください」 「そ、そんなことは……」 できません、と言葉を紡ごうとしたけれど、それは成実さんによって防がれた。 「さんの事は、殿から聴いています。かなり、知っていますよ。 殿が、お世話になったことも……すごく、感謝しています。ありがとうございました」 「あ、いや、そんな……」 「謙遜しないでください。ね。 それにしても、殿が、本当に五月蝿いのです。口を開けばさんのことばっか話すんですよ。 しかも嬉しそうに! あの殿がですよ、あの殿が」 「成実!!」 政宗が声を荒げて、成実さんに近寄る。 成実さんが、「ん? どうしました、殿?」と、人懐っこい笑みを浮かべながら政宗の方を向いた、瞬間。 政宗の手が、成実さんの頭を凄い勢いで叩いた。成実さんが地に伏す。 一瞬の出来事で、はっきり言ってどうすることも出来なかった。 政宗に「ちょっ、えっ、何してるんですか政宗さま!?」と焦りながらも言葉を発する。 政宗がの方を向き、「アイツの言った事は全て忘れろ! Forgetだ、わかったか」と、 低い声で怒ったように叫ぶ。ちょ、怖いんですけれど……。 が返事を直ぐに発しなかったからなのか、政宗がの肩を掴み、「忘れろよ!」ともう一度、 念を押すように言葉を発する。 それに、「あ、うん。はい、忘れます、絶対に忘れます、すいません!」と言葉を返した時、 成実さんが頭をさすりながら立ち上がって、政宗に向かって非難の目を向けた。 「……What?」 「何、じゃないですよ。なんで殴るんですか。 俺、普通に殿の事をさんに教えてあげようと──」 「教える!? HAN、あれの何処が教えてるっていうんだよ!」 「ええとですね、……政宗様が、さんの事をずっと話してた、ってと」 成実さんが、又もや地に伏す。 何故か。政宗が凄い勢いで頭を叩いたたからだ。 こ、こわ……。どうしよう、怖いってかどうしようどうしようどうしよう。 なんかアレだ。隠してた自分の日記が見つかったときぐらいどうしようって思ってる。 政宗が「てめえ、何も言うな! Don’t speak! OK?」と声を荒げる。 成実さんがむっくりと、立ち上がって、叩かれた場所をさすりながら、小十郎と……たぶん、鬼庭って人の所へ行き、 口を開いた。 「小十郎、綱元……、俺が悪いのでしょうか?」 「ああ、政宗さまを怒らせたお前が悪い」 「こ、小十郎酷いですよ……。 綱元も、無言で溜息つかないでください」 「HA! お前が悪いに決まっているだろうが、成実!」 「……俺は悪くない、悪いのは殿ではないですかっ! あんなにも、本当に毎日毎日毎日! さんのことばっか話してたんですから! なんだか、最初は微笑ましかったのに、はっきり言って何度も繰り返されると五月蝿く感じましたよ!」 「それとこれと、何の関係が──」 「あります! 俺は小さい頃から政宗様に仕えていました……。之即ち、政宗さまの保護者役! 兼ね友! ということは、子供、もしくは友の恋を見届けなくてはならない、というか叶えなくてはならない! 決して、暇だし殿の恋路を邪魔してやろうかな、うりうりー。なんて思ってもいませんよ、ええ!」 「本音が出てるぞ」 「小十郎、ナイス突っ込みですね! 京に上った暁には、俺と一緒に芸を披露しましょう。町中で」 「お断りだ」 「……成実、お前に伊達家当主としての命令を与える。 お前の名前を、今度から伊達藤三郎毛虫に改名しろ、OK?」 「ちょ、政宗様、なんで毛虫」 なんだか凄い勢いで目の前で会話が繰り広げられる中、少し突っ込みたいところがあって突っ込んでみた。 毛虫って。え、微妙に酷くない? そんな事を思って口にした言葉に、政宗は直ぐに問いを返してくれた。 「は知らねぇか。あいつの兜、毛虫をあしらった飾りがつけてあるんだ」 「へえー……、え? なんで毛虫……」 「確か、毛虫は後ずさりしないから、だったか」 「へ、へえ……そうなんだ……」 後ずさりしないから。か。理由だけ聞けば格好いいけど……毛虫……。 どんな兜なんだろう、すごく気になる。ふさふさしたものでも点いているのだろうか。 色々と想像をめぐらしていると、成実さんが何かを又言ったのか、政宗が「もういい!」と怒鳴って、 の手を引いて広間から出て行く。政宗を追いかけようとしたのか、駆けて来た小十郎に、 「お前は広間に居ろ」と、言って、政宗はずんずんと進んでいった。 小十郎が一瞬、口惜しそうな表情を浮かべたのは、見間違いでは無かったと思う。 政宗に手を引かれ、何処へともなく歩く。……こういうこと、前にもあった気がする。 そう思うと、なんだか自然と笑みが溢れてきて、「はは」と小さく笑ってしまった。 政宗が怪訝そうな表情を浮かべて振り向く。 「What? どうした?」 「ううん、前にもこういうことあったな、って思って」 「こういうこと……?」 「そうそう、政宗に手をひかれて歩くこと」 「……ああ。あったな」 「うん。 手をひかれる、って、なんか手を繋ぐのとは違うよね、感覚が」 苦笑を浮かべてそう言うと、政宗も苦笑を浮かべた。 なんだか、しょうがないなあ、なんて、そう言いたそうな感じの笑み。 「まあ、引いて歩くのは、誰かが先導して歩くこと、 繋いで歩くっていうのは歩幅をあわせて歩くことだからな」 「ああ、そうだねー。そんな感じ。 ……あ、そうだ、それにしても、政宗って、成実さんと仲良いんだね」 「……そうか?」 「うん。仲よさそうに、見えるよ。すごく。 っていうか実際、仲良いよね。あんなに軽口を言いあえるって、なんか見てて羨ましい感じがあった」 軽口を言い合える──、ってきっと良い事だと思うから。 どうしてだろう、の傍にもああいう風に軽口を言い合える人は居るのに、 なんだか羨ましく思った。 そんな事をしみじみ感じながら、言葉を発する。 すると、政宗は、手を繋いでいない片方の手で、の頭をぽん、と叩いた。 「── ありがとう、な」 「へ? いやいや、お礼を言われるほどじゃ……」 「お前も居るから、俺は頑張れるんだろうな」 「……へ、どういう……」 「なんでもない。気にするな」 そういって、政宗はとても嬉しそうに、笑みを浮かべた。 少し、頬を赤くして。 「……広間に戻らねえと、なー……。 くそ、絶対、成実になんか言われる……」 「あはは、良いじゃん、そんだけ仲が良いって事で! ね!」 そういって政宗の背中をぽん、と優しく叩く。 政宗が小さく溜息をついたのがきこえた。え、酷いね。女の子の心は儚く脆く崩れやすいんですよ。 そういおうとしたけれど、止めた。言ったら絶対馬鹿にされると思ったからだ。 それにしても、は今、とっても幸せだ。 ちょっと、哀しみとか怒りとか、そういう諸々のものを感じているけれど、それを覆い隠すくらいに。 それは、きっと。……きっと。 繋がれた手を、とても温かく感じた。 →NEXT −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 今年最後の更新。実は政宗さんも悩んでいることがあるのです。っていう。 成実とか鬼庭については、なんか……、うん。なにあの成実、って感じですか。最初は凄い変な口調だったのですが、 流石にそれはヤバイよね! ってか駄目だよね! と思い立ち修正。ですます口調。 設定的には政宗とお友達です。家臣だけど。仲がいい、軽口を言い合える、っていう。 それではでは。 2006.12.31 |