──。新しいことが始まったり、終わったりする季節だと、は思う。
入学式とか卒業式。入社式とか。そういうのは大体、この季節にやる物だと思う。
ちなみに、新しい友情が芽生えるのも、春だ。多分。




Act47.桜雲 上




「なあ、花見しようぜ」 ……政宗がそんな事を言い出したのは、昨日の話し合いが終わった後。
と、政宗と、小十郎が自分の部屋へと戻りに縁側を歩いているときだ。
は「へ?」とか、なんとか変な声を出して政宗を見上げ、「花見?」と訊き返した。



「そう、花見だ。聞けば、桜が咲いてるらしいじゃねえか。なあ、小十郎」

「はっ。何でも、今が満開の頃と……。政宗様、何時、行かれますか」

「Ah,そうだな……」



政宗は少し手を、あごの方に持っていって、少し考えた後、




「明日、明日にする」

「明日、ですか……」



政宗の言葉に少々驚きを隠せないのか、小十郎が唖然としたような面持ちで政宗の言葉を繰り返した。
政宗はニヤリとでも擬音がつきそうな何かを企んでいるような笑みを見せると、「そうだ」と言い、
小十郎が何かを言うよりも早く、言葉を続けた。



「もちろん全員で、だ。OK?」

「政宗様、急ではないでしょうか。明日、用事があるものもおります」

「良いんだよ、善は急げって言うだろ。な、!」

「微妙に違うような気がするんだけど……、うん、いいんじゃ、」



ない? と言おうとしたとき、なんだか凄い見られてる感じがした。
政宗じゃない。だとすれば──。ちらりと、政宗の右斜め後ろを盗み見る。
小十郎がを見ていた。凄い勢いだ。どんな勢いって、本当もう凄い勢い。そうとしかいいようが無い。
なんだろう、なんか伝えたいことでもあるのか。小十郎が何かを目で伝えようとしていることは分かるものの、
その内容までは分からない。だって一般人だし。目で通じ合えるとか、どこの超能力者ですか。

小十郎の口が動く。たぶん、『やめろ』的なことを、言ったんだと思うんだけど、如何せん良くわからない。
政宗が「?」との名前を呼んだ。



「え? なに?」

「何じゃないだろ、俺の話、聞いていたか?」



そういって政宗はぺしっとの頭を叩いた。やめてー! 脳細胞が減るー!
叩かれた場所をさすりつつ、「暴力反対ー」と呟くと、「ばか、これは暴力じゃねえ」と返された。
ちょっ、あれを暴力と言わずして何を暴力と……!

恨みがましい視線を送ると、政宗はふ、と微笑を浮かべ、「じゃ、また明日」と言い残し、
自分の部屋へと入っていってしまった。何時の間にやら、政宗の部屋の前まで来ていたらしい。
政宗が居なくなった後、は政宗の隣(と言っても、かなり離れている)の部屋、
つまり、に与えられている部屋に入ろうとしたのだけど、
それは小十郎によって止められた。小十郎が、肩を掴んできたから。



「……お前」

「な、なんですかね……」

「政宗様の話を聞かねえとは……」



そういって、小十郎は大げさに溜息をついた。
なっ! ひどい! 小十郎からのアイコンタクトを必死に読み取ろうとして、聞き逃してしまったんだっつーの!
小十郎からのアイコンタクトが無かったら政宗の話は断然、聴き入ってたっつーの!

……なんてことをオブラートに包んで言ったら、「はん」とか何とか言われて笑われた。
ひ、酷い……。



「っていうかですね、小十郎さん、のこと嫌いなんでしょッ」

「ああ、嫌いだ」

「だったら話しかけなければ良いじゃ無いですか」

「……政宗様からの命令だ」

「……はい?」

「お前と仲良くしろ、だとよ。俺としてはまっぴらだが、政宗様の命令なら仕方ないだろう。
 政宗様の前ではお前と仲良くしなきゃならねえ」

「……小十郎さんは、政宗の命令なら、なんでも聞くんですか」

「ああ」

「嫌いなやつと仲良くしろ、って言われたから仲良くするんですか」

「ああ」

「誰かを殺せ、って言われたら、殺すんですか」

「ああ」



──よどみなく、言い切られたから、だろうか。一瞬ひるんだ。
殺せって言われたら、殺す。有り得ないでしょ、普通。



「……そんなの……」

「お前は、違うところから来たのだろう?」

「……はあ」

「だから、だ。俺たちの普通はお前にとっては異常で、お前の普通は俺たちにとっての異常だ」



小十郎はに視線を移して、言葉を紡ぐ。



「俺はお前がわからない。お前も俺がわからない。
 お前は、俺がお前を何故嫌うか、わからないのだろうな。これからもずっと、わからずに過ごしていくのだろう」

「だって……、話してくれなきゃ、わからないじゃないですか」

「話さなきゃ伝わらない、そう思うのか、お前は」

「そ、うですよ……そう思いますよ」

「…………」



小十郎がと視線を交える。真剣な表情だ。
視線を逸らしてはいけない。そう感じたので逸らさずに居ると、しばらくしてから小十郎が口を開いた。



──お前は、大切なものを盗られたら、どうする」

「……た、大切なもの、ですか?」

「人でも良い。大切な、何かだ。それを、誰か、他人に。盗られたら、どうする」

「……泥棒、みたいなものですか。大切なものを盗られたら、怒りますし、もしかしたら泣くかもしれません」

「まあ、そうだろうな。大切な物を盗られたら、盗った人物を憎む。当然の行為だ」



小十郎が目を細める。睨む、のではなくて、を見据えているようだ。
風が出たせいで、木の葉がさわさわとそよぎ、場の静けさを強調した。

……に、しても……なんで、急に、こんな話に。よく、理解できない。
「だから」 唐突に小十郎が言葉を発する。



「……俺は、嫌いだ」

「……を、ですか。が、小十郎さんの大切な物を、盗ったからですか」

「…………」



無言。多分、肯定なんだろう。
でも、は小十郎の大切なもの、が良くわからない。者なのか物なのかさえも。
は、小十郎の大切な、何を盗ったのだろう。



「……意味がわからない、と言う顔をしているな」

「……だって、わかりません。、何も盗ってません」



少しの時間が流れてから、何故か小十郎さんの表情が少し変わった。
悲しそうな、そんな感じの表情に。この表情は、目は、前にも見たことがある。

こんな表情を浮かべられても、はどうすればいいのか分からない。
わからないのだ、本当に。何もかもが。何を言えばいいのか、何をすればいいのか。



──わからないなら、良い。俺の大切なものは、お前にとっては傍にあるのが当然のものなのかもしれないからな。
 だが、俺にとっては大きかった。俺の全て、といっても過言ではない」

「…………」

「だから、俺は嫌いだ。俺にとっての大切なものを奪ったお前が、な」

「……大切なもの……は、小十郎さんにとっては、人ですか」

「……さあな、ただ──



小十郎は一息、間を空けてから呟いた。



「お前はきっと、その大切さに気付くことなど、無いのだろうな」



……小十郎の大切なもの、それはきっと、者……つまり、人を表しているのだろう。
の傍に居て、がその大切さに気付けない人物。小十郎の全て。
その、大切な者、は。



「……政宗、ですね」

「……」

「政宗を、が、小十郎さんから盗ってしまったんですか」



言いたいことが多すぎて、なんだか上手く言葉に出来ない。



「…は、政宗が大切です。……小十郎さんほど、では無いかもしれませんけれど」

「当然だ」

「本当に、大切です。きっと傍からいなくなったら悲しいです──というより、
 一度、経験したから、わかります。悲しいです。きっと泣きます」

「何が言いたい」



小十郎が怪訝そうに眉をひそめて、に問う。
そんなこと言われても、にも良くわからない。ただ、何故だろう。
「大切」ということだけは、言っておきたかった。
「大切ではない」と思っていないことだけでも、知っていて欲しかったんだ。

ごにょごにょと、「にも良くわかりません……」と、呟くと、
小十郎は呆れたような声で「なんだそれは」と、やっぱり呆れたような表情を浮かべた。

……なんか最近、呆れられてばかりだ。
小十郎に向けて、「酷いですね……、呆れるとか」と、恨みのこもった声を出すと、
小十郎は「お前が俺を呆れさせるのが悪い」と言い、何を思い出したのか、一瞬、微笑を浮かべ、



「……昨日の厠巡りとかな」

「……あんなに厠、作るほうがおかしいですよね。一つあればいいんですよ、一つ!」

「馬鹿か、ここは城だ。多くの人間が集まっているのに、一つしかなかった場合、
 同時刻、大量の人間がもよおしたら大変なことになるだろうが」

「……ああ」

「馬鹿」

「馬鹿、馬鹿って! 馬鹿って言うほうが馬鹿なんですよ!」

「へえ」

「…………」

「でも、良かったじゃねえか。厠の場所、覚えただろ」

「……え」

「厠の場所、覚えてるだろ」

「……あ、はは」

「夜にもよおしても、俺が教えなくても良いよな」

「…………いや、本当にすみません」

「…………」



小十郎から視線をそらして、乾いた笑いを浮かべると又もや呆れたように溜息をついた。しかも、凄い大きく。
なんですか、この人は。今さっきまでのシリアスモードは何処に。
そんな事を思いつつ、小十郎を仰ぎ見ようとして、動作を止めた。

何処から来たのだろう、桜の花びらが風に乗って、の上に舞い降りてきたからだ。
手を出し、桜の花びらを掴む。淡い優しい色をしている。

──桜が全て散るころ。
は、今より、少しでも仲良くなれているだろうか。

最初の頃に比べて、態度が軟化してきたと思う。それは嬉しい。
けれど、小十郎は心の底ではを嫌っていて、その思いはきっと変わることは無いのだろう。
これからずっと。多分。

彼にとって、は政宗を盗った人物なのだから。



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あとがきーの。

別にBLではありません。でも、読む人にとってはそう感じるかもしれません、申し訳ございません。
小十郎→(親愛の情)→政宗……を、目指しております。いやっ、だってもう、ね!
十何年も一緒に居たのだから、愛情通り越して親愛……みたいな。
親が子供に抱く感情と同じようなものを抱いていればいいとおもいますです、はい。
ム/ー/ディー勝山、好きです。脈絡ありません、すいません。歌を取って着ウタにしたいぐらいです。
ちなみに桜雲とは、桜の花が一面に咲きつづいて、遠方からは白雲のように見えること。花の雲。
……という意味です。だからなんだって、なんともいいようがありません……。

2007.4.14