桜が散るように
季節が変わるように、周りの世界は目まぐるしく変わっていく。
一人を、残して。



桜雲 下



そんなこんなで、なし崩し的に花見に来た。
どうやら今、此処……奥州では、桜が咲き誇る時期らしく、 木々を彩るように、桜の花が沢山咲いていた。
これ、花粉症になるんじゃなかろうか。が。

そんな一抹の不安を抱えつつ、となりを歩いている政宗に話しかけた。




「ね、何するの? 一体」

「Ah,料理とか食うだけか、とりあえず。……何かしたいことでも、あるのか?」

「ううん。ない……よ。うん」

「そうか。ま、何かやりたいことが有れば言えよ。次の年の花見の時には採用してやるから」

「うん、ありがと」




見渡す限りに、桜の木が咲いている。こんなにも咲いているところなんて、あったんだ。と、思う。
此処まで来る時間はとても少なかったので、多分、政宗の城の近くにあるところなんだろうな、とは思う。
道順は覚えていない。政宗達が歩いていくのを後ろから付いていっただけだったからだ。

──の前には、元就・元親・幸村……などなどが、歩いている。
何時の間に仲良くなったのだろうか、凄く楽しそうに話しながら。

その楽しそうな姿に、何故か胸がきり、と痛んだ。
何故なのだろう……違う、分かっているはずだ。は。多分、嫌なのだろう。
皆が、仲良く話しているところを見ることが。
の友達を、のもう一人の友達が取っていくような感覚になる。

はこんなにも独占欲が強かっただろうか。
なんだか、自分の見たくない『自分』を見てしまったようで、その三人から目を逸らした。




「──

「……ん、どうしたの、慶次ー」

「いや、なんていうかよ。いいよな、花見って!
 これでこう、酒なんかをくいっと呑みながら見られたら、もう極上なんだろうけれどな……」

「お、お酒ですか……。まあ、突っ込みはしないよ。
 っていうか、慶次ってアレだね、花よりお酒の方が呑みたいぜ! みたいな、そんな感じするよ……」

「ばっ、俺は花だって見るぞ、花だって!
 桜の舞い散る様には、郷愁の念が出てくるよな」

「物悲しい感じ、だよね。うん、わかるよー」

「秀吉が、花見好きなんだ。よく、俺も秀吉の開催する花見に行ったよ」

「ふうん……?」

「秀吉の姿、見たこと……、無いか? ……無いよな。
 すっげーガタイが良いんだぜ。んで、なんか圧迫感もあるし。けどよ、付き合ってみると良いヤツなんだ。
 妻も居…るし……、名前はおねね、って言うんだけどな。すっばらしいほどに、良い女でさ。
も、本当、俺あんなに恵まれたやつ、みたことねー」

「へえ、見てみたいなあ」




実際には、一応、画面越しに見たことはあるんだけれどね。
確かに、ガタイは良かった。圧迫感……があるのかどうかまでは、画面越しにはわからなかったけれど。
まあ、なんというか……人を掴んでブンブン振り回しているあたりが、なんていうか……。
圧迫感があるっていうのだろうか。 ……違うよね……。

確か、秀吉の近くには半兵衛も居たはずだ。
竹中半兵衛。恐ろしく頭の回る人だったと聞いた事がある。

二人に会ってみたいのだけれど、多分無理だろう。
奥州から、あの二人の居るところまでは、遠すぎる。が歩きで入ったら、何十、何百と日が必要になるだろう。
はあ、と溜息をつくと慶次が「ん? どうした?」と声をかけてくる。



「いや……別に、気にしなくて良いよ」

「んー? そういわれると、逆に気になるだろうがっ。教えろよ、ほらほら!」

「でっ、ちょっ、小突くのを止めて! 痛いから!」

「ほらほらほらほらほら」

「ちょっ慶次! 怒るよ怒っちゃいますよ! 殴るよっ!?」




慶次に勢いよく小突かれ続け、の我慢の緒が切れ、右手を振り上げる。
そうすると、慶次は一転、腰を低め顔の前に手を出し、可笑しそうな表情を浮かべた。




「うわーっってば酷いよなあ! 俺、なんにもしてないのに、殴ろうとするなんて」

「してるし! 凄い小突いてきたじゃん、痛かったんだけどっ!」

「まあ、それはそれ、これはこれ。別に痛くなかっただろ」

「え、人の話聞いてる? 、痛いって言ったじゃん。ついさっき!」

「あ? そうだっけ? ま、別にいいじゃねえか。あはは」

「良くないから!」




慶次は腰に手を当て、嬉しそうに笑う。
あまりに豪快に笑うものだから、前を歩いていた人々が怪訝そうな表情を浮かべ、慶次を見る。
やめ……慶次めちゃくちゃ恥ずかしいですよ。が。
みんなの視線は、直ぐに興味を無くしたのか、ふいと逸れたのだけれど。

すすす、と慶次の傍を離れようとすると、慶次が「おいおい、なんで逃げるんだよ」と言って、
をどん、と叩いた。前に。その力が強すぎて、はこけそうになる。





「ちょっ、ちょちょちょちょちょっ!?」




変な悲鳴を残し、は地面と衝突──はしなかった。
誰かが寸での所で、の地面との衝突を止めてくれたからだ。
の腰に手を回し、体重を支えてくれている。
その後、その人は「何やってるんだお前」と言う、呆れたような言葉と共に体制を引っ張って直す。




「……お前は、あぶなっかしいな。というより、馬鹿というかあほというか」

「こ、小十郎さん……ひ、酷くないですか……。馬鹿とかあほとか! 馬鹿って言うほうが馬鹿なんですよー」

「昨日も言っていたな」

「……そ、そうでしたっけ。……ま、まあ何と言うか! えーっと、助けてくれて有難うございました」

「別に。ただ、お前がこけて、もし怪我でもしたら周りが五月蝿いからな。
 それに俺が責められることになる」




何で? そんな思いを込めて小十郎を見上げたら伝わったのか、小十郎は呆れたように額に手を当て、
「俺がお前の護衛になっているからだ」と、怒ったように言葉を発した。

……ああー。そうですねー。護衛ですもんねー。
まあ、でも助けてくれたことに変わりは無い。もう一度だけお礼の言葉を言った。




「──まあ、ありがとう。助かったし、嬉しかったです」

「……お前のためではない。政宗様のためだからな」

「はあ……そうですか」

「間違っても『小十郎さん……を助けてくれた、どうしよう。胸が高鳴る。……嬉しい!』とか、思うなよ。気持ち悪い
から」

「うん、正直言って、の声真似をする小十郎さんのほうがきも……いや、なんでもないですよ」




小十郎が凄い勢いで睨んできたので、言葉を途中で止める。
いや、でもさ……あの小十郎が裏声ですよ裏声。どうしよう、笑うかと思った。
頭の中で、小十郎の言葉を何度も再生させては、笑みを浮かべていたら、
小十郎が「にやけるな、しだらがないぞ」と言って来た。




「……し、しだら…?」

「ああ。まあ、お前は何時でもしだらがないから、別段、今言うことではないがな」

「あ、あは……え?
 しだらがない? え、どういう意味……」

「……」




しだらがない、なんて言葉初めて聞いた。意味がわからない。ので、小十郎に首をもたげて聞くと、
怪訝そうな顔をされた。え、なに、え?
しだら……。しだら? 何ですか本当そのことば。

小十郎が口を開く。




「──わからないなら、別に良い」

「えっ!? ちょっ、酷い! 教えてくれても良いじゃないですか」

「別に、意味を言ってもわからないのだろう、お前は」

「わかりますよ」

「絶対か」

「……多分」




言葉を濁すと、小十郎は嘲るような笑みを見せた。
ええええー。酷いね、非常に酷いですね。っていうか何だこの人サドか。
まじまじと顔を見る。嘲るような表情を浮かべていても、小十郎の表情は元が良いからか、とても格好良い。
だからって、ずっと嘲るような表情を浮かべられても、「え、何?」的な感じになるんだけれど。

っていうか、こういう悪そうな人は大体は実は優しくて、雨の日に犬を拾ったり、とかなんか、
そういう昔の少女漫画チックな設定があったりするんだけれど、
小十郎さんに限ってはありえない気がする。子犬とか拾わなさそう、絶対。子猫も同様だ。




「……あ」

「何だ」

「いや、ちょっと、あの頭が」

「なんだ、おかしくなったのか。それは元からだ、今気付いたのか?」

「ちが! の頭の話じゃなくて、小十郎さんの頭の話ですよ!」

「俺の?」



怪訝そうな表情を浮かべる、小十郎の頭の上に、のっかるようにして桜の花びらが一枚ある。
こ、これは……なんていうか、どうしよう笑える。いや、でも今笑ったら絶対殺される……!
なので、頭の上をちょいちょいと指差す。
だけど、小十郎には伝わっていないようで、怪訝そうな表情をますます深めるばかりだ。




「いや、あの、頭に、」

「おっ、小十郎さん、頭に桜の花弁を乗せるとは風流だね!
 俺も真似してみようかな」

「……桜?」



の横に居る慶次が、楽しそうに頭を指差して言う。ちょ、アカンー! アカンからー! 
もっとオブラートに包んで……って、まあ、包みようがないんだけれど。

小十郎が伺うように頭に手をやり、桜の花びらを掴む。
漆黒の髪に、薄紅の彩を添える花──なんて言ったら、少しは格好良く聞こえるかもしれないけれど、
実際問題、凄い勢いで変だった。
……まあ、桜の花びらが乗っていることに気がつかず、ぽかんとした表情を浮かべていた小十郎は、
可愛いといえば可愛かったのだけれど。

小十郎は、自分の手に乗っている桜の花びらをじっと見て、それからぽいっと放り投げた。
といっても、桜の花びらは凄い勢いで飛んでいくわけでも無く、ひらひらと風に踊って、地面へ落ちた。
それを一瞥してから、小十郎は「早く行かないと、政宗様においていかれるぞ」と、を急かす。
それに生半可に返事を返し、は歩き出した。







何分か歩いただろうか、達は大きな桜の木の前についた。
政宗が、桜の木の根元に寄り、「此処で良いよな!」と声を張り上げ、「よし、Let’s party!」と言葉を続けた。
持ち物を運んでいた家臣たちや女中たちが、桜の木の根元に敷物をしき、その上に豪華な食事を並べた。




「さあ、じゃんじゃん食べろ、飲めっ! 楽しめ、今日は無礼講だ」




政宗がそういうと同時に、元親が「へえ、すげえことするな、伊達のやろうも」と嬉しそうに声を弾ませて言い、
其れに対して元就が「野蛮なだけだろう。変だ。おかしい。……だが、まあ、良いとは思うがな」と、
少し不満そうにそっぽを向きながら答えていた。

幸村が「すすす凄いでござるー! な、なんでも食べていいのでござるか!?」と、興奮してはしゃぎ、
何処から現れたのか佐助が「旦那、程ほどにしないと腹壊すよ」と牽制をかける。

お酒も少しながら皆に配られているようだった。
にも女中さんが「どうぞ」とか言いながらお酒の入った猪口を差し出してきたけれど、謹んで辞退した。

慶次が、猪口に入った酒をちびちびと飲みながら、「あ、そうだ、」と何かを思い出したように言葉を発した。




「んー、なに?」

「俺、明日、出て行くから」

「? 何処から?」

「此処、──奥州から」

「へ……。突然、どうしたの?」

「いや、ちょっと用事思い出してさ。だから、帰るよ。
 本当は一日だけしか泊まらないはずだったのに、こんなに長居しちまったし……。
 政宗さんには言ってある。だから、明日の早朝にでも、直ぐに」

「用事……そっか、それならしょうがないよね」

「ああ。終わったら、又、会いに来るよ──必ず」

「うん、約束だね。待ってるよ」




そういうと、慶次は嬉しそうに笑みを浮かべ「約束……ああ。約束だ!」と言い、
の頭をわしわしと撫でた。ちょっ、ちょっと! 髪が、髪が乱れるんですけれど!

小十郎が、「何をしているんだ」と、やっぱり手に猪口を持って、近づいてくる。
慶次が其れに対して、「別に! 小十郎さんには関係ねえよー」と、ニヤニヤとした笑みを浮かべて、
の頭から手を離し、「じゃあな!」と言って、何処かへと走って行ってしまった。

その場に残されると小十郎。
小十郎が、「なんなんだ、あいつは……」と苦々しげに呟くのが聞こえた。




「おかしな奴だな。本当に」

「そうかな。優しい人だし、面白い人だよ、凄く」

「……」




小十郎がジト目でを見る。な、なんですかその目は……。
少し居心地悪く感じていると、小十郎が小さく、にだけ聞こえるような声量で言葉を発した。




「……好きなのか?」

「すっ!? す、好きって、え? いや、あの……どっちの意味で」

「一つの意味しかないだろう」

「え、えーっと、いや、あの、友達としてなら、好きだよ」

「……」




しどろもどろに答えると、小十郎はしばしの間、無言になったあと、
「そうか」と言い、の傍を離れていった。背中を見送るように、見る。彼の向かっている先は、政宗だろう。多分。


は大きな桜の木の根元に近づき、木の表面を手で触った。ざらざらしている。当然だけれど。
もしツルツルしてたらそれはそれで驚く。寧ろ「えっ!?」とか言って、手をひくだろう。

仰ぎ見るように桜の木を見る。桜の花が生い茂り、美しい桃色の彩をかもし出している。
大きな木だな。此処まで育つのに、どれくらいかかったんだろう。

はらはらと舞い散る桜の花びらを見ながら、そんな事を考えた。

答えは分からない。まあ、どうしても知りたいってわけじゃなかったから、放っておいた。




夕方になり、帰りの旅路についた。
その日の夜は、晴れていた昼とは違い、暴風警報が出そうなくらい風が強く吹いていた。


次の日、起きた後、昨日訪れた桜の木のあった方を、天守閣へと登って、見てみた。
桜雲のように、咲き誇っていた桜は、昨日の風のせいで、ほとんどの桜の花が飛ばされたのか、
もう、昨日の美しい桃色はあまり見ることが出来なかった。




NEXT
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

あとがき。

変わっていくのです。これからどんどこ物語を動かします。頑張ります!
そしてUPがひたすらに遅れてしまって申し訳ない……。今度は、もっと早くに書きたいです。

2007.5.27