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最近は良く、佐助と話す。最近、って言っても……この二、三日のことなのだけれど。 佐助は、あのとき──に、問いを投げかけたとき──とは全く違う雰囲気で話しやすい。まあ、つまり……なんていうか、優しいのだ。雰囲気が。 それに、色々との知らないことをとても可笑しく話してくれるので、どうしても佐助と良く話してしまう。それは悪いことでは無いのだけれど、小十郎は後ろから無言の圧力かけてくるし、元就なんかは「我は言っただろう、あまり仲良くするなと」と、機嫌を悪そうにする。 そんな日が続いた、四日目のことだった。 Act49.頼もしい背中 「──今日は、市がたつぞ」 「へ?」 いつものように朝起きて、着替えて。部屋の外に出た途端、小十郎に言われた言葉。 市……市か、良いなあ。行きたい。 そんなことを思っていたら、小十郎が「行きたいのか?」と問いかけてきた。 「えっ、うん! 行きたい、です」 「そうか」 そうか、そうかって……! 話題を振ってきたのはそっちなのだから、少しは会話を続けて欲しい。そんな事を思いつつ、「え、あの、行っても……良い?」と問うと、短く「ああ」と返事が返ってきた。 微妙に驚いた。それが表情に出ていたのだろう、小十郎が「何を驚いている」と声を低くして問いかけてくる。 え、いや、だって止められると思ったのですよ。だって小十郎だし。そう言おうとしたけれど、流石に酷いかな、と思い口にするのは止めた。 小十郎はを一瞥して、言葉を続けた。 「行きたいのだろう。ならば、俺が止めても意味が無い」 「え、やー……はい」 呆れたように紡がれた言葉は、微妙に胸にチクリと来た。 “止めても意味がない”──、なんだか、その言葉が異様に引っかかったから、なのかもしれない。 まあ、でも、市に行くことを許してもらったわけだし、小十郎にお礼を述べて、政宗たちに行き先を告げてから、城下へと向かった。 * ということで、城下だ。いつもより人で賑わっている。色々な店も出ていて、凄く楽しい。 右斜め後ろに振り向くと、小十郎が「なんだ」と声をかけてくる。それに「いや、楽しいな、って思って!」と答えると、呆れたような表情を浮かべられた。 いつものことだ。別段、気にするようなこともない。 は前を向いて、もう一度、歩き出した。 その時、一つのお店が目に入った。はそのお店に近寄る。 お店番の人は女の人で、を見て「いらっしゃい」と声を掛けてくれた。 並べられているのは可愛い小物。はやっぱり、女の子な訳だから、こういうのに目が惹かれる。えー、可愛いなあ。買いたい、な。 ……城下に行く前、政宗から貰った、袋を触る。ちゃり、と音が鳴った。 「市がたつからな、欲しいものも出来るだろうし……やるよ」と、政宗に差し出されたこれには、お金が入っていた。勿論、凄い勢いで「え、良いよ、だってお金じゃん! お金! 大切なものだよ、は見るだけで良いよー!」と答えると、「ばか、俺がやるって言っているんだから、貰っとけ」と強引に渡された。 その時、は思ったのだ。城に戻ったら、これまで以上に、お城の手伝いをしよう、と。 お金を貰っただけ、なんて……駄目だろう、多分。それ相応のことをしなければ、そういう物は貰ってはいけない。多分。 そんな決意を固めつつ、は政宗に「ごめんね……ありがとう」と頭を下げた。すると、政宗はの頭に手を置いて、「どういたしまして」と言ってくれた。声はとても優しくて──は、なぜか頬に熱が集まるのを感じた、わけなのだけれど。 そんな感じで貰ったお金。なんだか使うのが勿体無いなあ、と思うのはしょうがないんだろう。 そんなことを考えつつ、並べられた小物を見ていると──、遠くの方から叫び声が聞こえてきた。 ……え。叫び声? 思わず、声が聞こえた方に顔を向ける。人だかりが出来ていて、なんにも見ることが出来ない。 小十郎が剣呑な表情を浮かべ、人だかりの出来ている方へ早足に歩いていく。え、何故に。そう突然の行動に驚きつつも、はぐれたらあぶないので、は小十郎を追いかけた。 近づくに比例して、なんだか声が聞こえてくる。何かを言い争っているようだった。 人だかりを揉みつ揉まれつ、どうにかこうにかして抜けて、言い争っている人を目に留めることが出来た。 「──返せ!」 「これは俺のだ」 「嘘をつけ!」 人だかりの中心、言い争っているのは男の人と、大体小学生ぐらいの歳に見える、男の子だった。 男の子のほうは頬を蒸気させて、ずっと相手に対して非難を言っている。 男の人の方を見ると、手にはが持っているような袋を持っていて、それを揺らしている。時折ちゃらちゃらと聞こえるから、お金が入っているのだろう。 「それは、大切なお金だ! 返せ!」 「なんで俺が盗ったってわかる?」 「お前とすれ違った瞬間に、財布が無くなった。みれば、お前が俺の財布を持って、しかも銭を数えていた! 決定的だろう!」 「ははははは、先走りは良くないぜ、お坊っちゃん。これは俺の財布だ。お前の財布はどこかにでも落としたんじゃないか?」 「嘘だ! 返せ! それは俺のだ!!」 男の子が、男の人に掴みかかる。きっと、財布を取り返そうとしているのだと思う。 けれど、男の人は財布を男の子の手に届かないところへと追いやり、「ほら、どうした」と嘲笑を浮かべながら可笑しそうに声を出す。 男の子が顔を真っ赤にさせて、男の人を叩いた。ばし、と良い音がする。すると、男の人は「おいおい、痛えなあ」と言いながら、男の子を同様に叩いた。 衝撃が大きかったのか、男の子はたたらを踏んで、その場に座り込む。 ええええー! なにこれ、一体どういうこと、っていうか誰か止めてよ! なんていうか……こんな状況初めてだし、なにをすれば良いのかわからない。周りを見渡すけれど、どうしようもならない。気付いたことと言えば、小十郎を完全に見失ったことだけだ。 え、ちょ。小十郎さん、何処に。キョロキョロと周りを見渡すけれど、それらしい姿は全く見つからないばかりか、男の人と男の子の言い争いがヒートアップしているのが耳に入ってくる。 え、真面目にこれは止めなきゃいけないんじゃないのか。そう思った瞬間、耳に高い音が入ってきた。何かを、叩く音だ。 動かしていた顔を止めて、反射的に二人を見る。男の子の頬が赤くはれているのを見て、ああ、殴られたのだな──と思った。 男の子は口惜しそうに瞳に涙を溜めて、身体を震わせているように見える。逆に、男の人は嬉しそうに笑みを浮かべ、その場を去っていこうとした。 え、だ、駄目じゃん! これは。誰か止めなよ、何で誰も止めない。 そこまで考えて、男の子がこらえきれなくなった涙を頬に流した頃、は反射的に声を出していた。 「ちょ、ちょちょっと! 待ってください!!」 「……?」 男の人が怪訝そうにこちらに振り返る。視線はとてもきついもので、身体が竦んだ。 っていうか、自分なにしてるの自分ー!! こ、こんなのって、見ている側の人間だったのに。 男の人が近寄ってきて、「なんだよ、嬢ちゃん」と声を掛けてくる。今さっきまでは気づかなかったけれど、声にドスが効いていて、怖い。 手のひらをぎゅっと握って、「あ、謝ってください」と震えながら声に出した。 「謝って? 誰に?」 「そっ、そこの男の子に、です……」 「何で」 「殴ったじゃないですか! たとえ、男の子が何かしたとしても、殴るなんて……そういう行動はしちゃいけないと」 「俺に疑惑をかけたんだぞ」 「その疑惑が真実かも知れませんし、あなたの言っていることが真実かもしれない。 そんなのは誰にもわからないんです! でも、貴方がこの子を殴ったことは真実です。 幼い子には暴力を振るってはいけない、と言われませんでしたか!」 「ああ、言われなかったな」 笑みを浮かべられた後、「──お嬢ちゃんは、偽善だな」と言われた。 偽善。そんなこと、わかっている。ぐ、と唇を噛み締めると、上からもう一度声が降ってきた。 「俺は、偽善者が嫌いなんだよ──」 腕を振りかぶるのが見えた。直感的に、殴られる、と感じて。腕を顔の前に出した。 ばちん、と音が鳴る。でも、衝撃は来ない。何でだろう。 恐る恐る目を開けると、そこには見知った人の背中があった。 「おまえ、此処は何処か知っていて、そのようなことをやるのだな」 と話すときより、低い、相手を脅すような声。それだけでも、背筋が粟立つ。 男の人の息を飲むような音が聞こえた。 「──お前の持っているそれは、本当にお前のものか」 「……」 「答えろ」 「……なんだ、俺が悪者みたいじゃねえか!」 言って、男の人は袋を地面に投げ捨てて、踵を返して行った。え、凄いあっけない、っていうか。 背中を向けている人物、つまり小十郎がその落とされた袋を広い、男の子に手渡す。 男の子は「あ、ありがとうございます!」と言い、お礼をしてから、その場を去っていった。 周りを囲うようにして居た沢山の人々が、離れていく。 は小十郎に駆け寄る。小十郎には、何処も赤いところなんて出来ていない。でも、音がしたから、絶対に何処か殴られたのだろう。 が。が、あの場に出なかったら、小十郎には怪我が出来なかったのに。 のせいで。そう思うと、なんだか涙が出そうになる。 震えた声で、小十郎の名前を呼んだ。 「……ごめん」 「なんでだ」 「の、せいで……な、殴られた、でしょ?」 「……」 沈黙は肯定、として、とっても良いのだろうか。小十郎の服の裾を強く掴んだ。 「──ごめん……本当に、ごめん……、が殴られれば良かったんだよ。小十郎が殴られる理由なんて、無かった」 「ああ、そうだな」 「ごめんなさい……」 非難するような声は混ざっていなかった。けれど、自分のしたことは十分に非難されるべきことだろう。偽善者のようなことをして、怪我を他人にさせて。なにも考えなかった。ただ、男の子がかわいそうで。 は、馬鹿だ。 ついつい、小十郎の服を掴む手に力が入ってしまう。すると、小十郎が呆れたような溜息をつく声が耳に入ってきた。 呆れさせてしまった。いつものこと、それなのに今は自分の心に酷くのしかかってくる。 『こいつは救いようがない』とか、『もうこいつの傍には居られない』とか、思っているのだろうか。涙が出そうになる。 頭が俯いていく。と、頭に軽い衝撃が走った。なんだろう、と思う暇もなく、撫でるように頭を触られた。 上を向くと、小十郎と視線が合う。頭のうえに乗っているものは、小十郎の手らしい。 「──お前は、確かに……厄介ごとに首をつっこむ、なんて荒芸当をしたわけだが」 「ごめん」 「別に、謝れとは言っていない。俺はお前を守る役割の人間だからな。……今は。 ……ただ、お前がしたことは、良い事だ」 「そんなの、わかんないよ……」 「そうか? でも、あのおのこは礼を述べた。それが、良い事をした証じゃないのか」 「……そう、かな」 「まあ、真偽はどうとしても、お前が、おのこが殴られた瞬間、あの男の前に立ちはだかったのは、ある意味、肝が冷えたな」 「…ごめん」 「やらない偽善よりは、やる方が良いだろう。お前はやった。胸をはれ」 そういうと、小十郎は薄く微笑んだ。 ──そういうもの、なのだろうか。には分からない。けれど、のしたことを正しいと言ってくれる人が居る。その存在だけで、は涙が出そうになってしまう。 『誰か、助けなよ!』と思ったのは、本当のことだ。誰かが出て行ったら、はきっと、何もしなかった。そんな偽善でも、良いといってくれる人が居る。 小十郎が、「行くぞ」と言って、さっさと歩いていく。 え、酷い。そんな事を考えつつ、瞳に浮かんだ涙を拭き、は小十郎の後を追った。 「それにしても……どうして、あの時、直ぐに人だかりの方へ行ったの?」 「城下で何か事件が起きたら、政宗様に迷惑がかかる。だから急いだ」 「そうですか……、、小十郎さんが早歩きでどっか行くから、一瞬驚いたよ」 「そうか……、それにしてもお前はなんであんなところに?」 「え、いや、あの、追っていたら何だか前に」 「……馬鹿、だな」 「ひ、ひどい! 馬鹿じゃ無いですよ、っていうか」 「馬鹿って言った方が、馬鹿。……か?」 「……人の台詞を先取りするのは、いけないと思います」 「お前が毎度毎度、同じことを言うからだ。飽きた。他のものにしろ」 「あ、飽きた、って……。そんなこと言われても」 馬鹿、や阿呆、と言われても前ほど苛立たない。というか、怒りを全く感じない。 それは、が少なからず小十郎に好意を持ったからだろう。今まで以上に。 目の前の小十郎を見て、薄く笑いを零すと、「何故、笑っている。変なものでも見えるのか」と問いかけてくる。へ、変なもの、って……。 それに、「なんでもないですよー」と答えると、無言で歩く速さが上がった。ちょ、置いてかれる。 そんな事を思いつつ、小十郎の歩くスピードと同じく、も速さを上げて、追いかける。 前を行く背中を、とても頼もしく感じた。 →NEXT なんていうか月並みですね。最近は月並みな文章ばかり浮かびます。どうしようもありません。 ですが、頑張って書いたので、少しは楽しんでいただけると幸いです。 終わり方については、毎回すみません。苦手です、締めるのが。 にしても、今回のお話は小十郎が始めて主人公に好意を持って触れてきたお話しなのです。 2007/08/15 |