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Act54.密かに感じる 「んー、あれ」 小十郎の農園を手入れし終わったので、佐助に言われたように二人が特訓しているであろう、大きな庭へとやってきた。すると、そこで二人を見つけることは出来たのだけれど、何故だろう、二人は地面に寝転がっていたのだ。 ……何があったのだろう。っていうか、なんで地面に。疑問はつきないけれど、まあ考えていてもしょうがない、と気にしないことにした。 一歩、踏み出せば寝転んでいた幸村がばっと体を起こし、の方に顔を向ける。 そうして、目が合ったかと思うと、にへらと笑い「ああ、殿」と嬉しそうにの名前を口にした。近寄ると、額にびっしりと汗をかいているのが分かった。 「お疲れ様、……だよね?」 そういうと、幸村は首を頷かせる。拍子に、ぽつりと地面に雫が落ちた。汗だろう。 うーん、タオルか何か持っていれば拭けるんだけどなあ。あいにくと、持っていない。 幸村はぐいっと腕で額の汗を拭うと、「やはり、体を動かすのは楽しいでござる!」と意気揚々と言葉を発した。 それに、「凄いね」と答えると、きょとんとしたような表情を浮かべられ、「そうでござるか?」と返された。いや、貴方を凄いといわずして誰を凄いと言うのですかと。 心の中でそんなツッコミを繰り出しつつ、は幸村の近くにしゃがみこんだ。 幸村がを見て、にこにこと笑みを浮かべ「殿、来てくださったのでござるなっ」とこれまた嬉しそうに言葉を弾ませた。 「うん。鍛錬とかさ、、あんまり見たことないから興味深くて」 苦笑を浮かべてそう言うと、幸村は「興味、」と一言呟いたかとおもうと、その場に勢い良く立ち上がり「佐助ぇ! もう一度、手合わせをするぞ!」と佐助に向かって喋る。 すると、佐助は「ええ!」といやそうな声を出したとおもうとがばりと上半身を上げ、「ヤだよ、俺様もう疲れました!」と顔の前で手を振る。見れば、佐助もうっすらとではあるけれど、汗をかいている。 けれど──幸村はそんなことお構いもせずに「ほら、佐助!」と急かすように名前を呼ぶ。 ……えっと、これは、もしかして。が興味深くてとかなんとか言ったからこんな状況になったのか。え、うそ。 佐助の方に顔を向けると、視線がかち合う。佐助は眉をおもいっきりしかめて、「ちゃんも言ってよ! もう止めてー、って!」と言って来た。 すると幸村がすかさず、「ええい、佐助、早くせぬかっ」と怒ったように声を発する。 佐助は「だあーかあーらあー! 全然休憩してないじゃん! 俺様を殺す気ですかっ!」と声を荒げる。 「むっ。……殺すつもりなどない、ただ、手合わせを……」 「だから! それがいやなんです、あんなにもやったんですからっ! 今日は無し終わり終了!」 「……むう」 途端に不貞腐れたような表情を浮かべる幸村に、は小さく笑みを零す。佐助が「あー、ほら、もうっ! ちゃんに見せるのは明日でも良いでしょーが!」と焦れたように言い、に視線を向け、「ちゃん! 明日は暇だよね」と問いかけてくる。 それに、首を頷かせ「ああ、うん。暇だよー」と答えると、佐助は笑みを浮かべ、「よし! それじゃあ、明日また見に来てよ、鍛錬」と言うやいなや幸村の方を向き、「それで良いでしょ、旦那」と怒ったように言葉を発する。その変わり身の早さ、感嘆に値しますよー。 ……なんて、変なことを考えている場合ではない。多分。 幸村がに視線をやり、「殿が、それで良いのなら」と呟くように一言。 なんだか、怒られた子供のようだ。それに苦笑を零して、「うん。幸村、ありがとう! 楽しみにしてるね」と言うと、幸村はぱっと笑みを浮かべた。 その様子に佐助は苦笑を漏らし、その場に立ち上がる。額に滲んでいた汗は、今やもう無い。 幸村に向かって意地悪げな笑みを浮かべ、「だーんーなー」とおちょくる様な声を出す。 名前を呼ばれたほうは、頬を赤くし、「さ、佐助! 止めろよ!」と何だか必死な声を出していた。 っていうか止めろ? 何を? 浮かんだ疑問をそのまま口にしたら、幸村が頬をもっと赤くして、「な、ななな何も無いでござるよ! そ、そうでござる! その、佐助っ、佐助がっ!」とと佐助の間に立ち、目の前で手を振る。その勢いが凄くて、なんだか笑えてくる。 でも、今、笑ったりしたら目の前の人物は絶対に凹むだろう。だから、必死に笑みを押し殺し、は「まあ、その、言いたくなかったら良いけどね」と言葉を発した。 「そ、言いたくない……訳では、ないでござるけれど……」 「んー? どういう意味?」 「……」 が疑問を口にすると、幸村はもじもじと頬を赤く染めて、その場に棒立ちするだけ──なんだ、幸村は恋する乙女か。心の中で変な妄想を繰り広げていると、遠くから名前を呼ぶ声が聞こえた。 「──真田、猿飛、!」 声のするほうに視線を向けると、政宗が歩いてくるのが見えた。少しもせずに、政宗は達と合流すると、の方を向いて「、良い報せだ」と笑みを浮かべた。 ──良い報せ? どういう事なのだろう。「へ?」と間の抜けた声を出すと、政宗は「小十郎達が、一揆を鎮圧したらしい」と早口に言い切った。 「……へ……」 「Ah、そうだな……、多分、あと二、三日で帰ってくるんじゃねーか?」 「へえ……」 気の抜けた返事ばかりを返してしまったからか、政宗は不満そうな表情を浮かべ、「What? 嬉しくねえのか?」との頭の上に手を乗せた。 いや、そんなことはない。そんなこと、無いのだけれど──。 なんだか、実感が湧かない。 一揆を鎮圧した、それはなんていうか……多分、良い事なのだろう。でも、なんていうんだろう、なんだか遠い出来事のように思えた。行く前はあんなに心配していたのに、と心の中で愚痴る。 一揆を行った人は多分……いつきちゃんなのだろう。習ったことがある。一揆を行った人は、打ち首にされるのだと。だとしたら──、どうしよう、素直に喜べないかもしれない。 優柔不断だなあ、なんて心の中で思いながら、不思議な顔をしている政宗に「実感が湧かなくて」と言うと、「……そうか。ま、帰ってきたら嫌でも実感が湧くだろうよ」と言うと、に顔を近づけて、言葉を続ける。 「一揆だって戦と代わりがないからな……お前、帰ってきてすぐの小十郎や元親、元就には会わねえほうが良いと思うぜ。Do you understand?」 「へ……」 どういう意味──? そう訊こうと口を開いたと同時に政宗の顔が離れ、頭をがしがしと乱暴に撫でられた。うわ、ちょっと! ぐしゃぐしゃになった髪の毛を治しながら、「も、政宗!」と声を荒げると、くつくつと笑う声が聞こえた。酷い。どんだけーだ。 幸村がすっとの頭に手を伸ばし、「大丈夫でござるか?」と優しく撫でる。なんだか妙に気恥ずかしい。「大丈夫だよー」と言うと、それなら良かったでござる、と笑みを浮かべられた。 あー癒し系ー。抱きつきたい。いやでも抱きついたらそれは人として駄目か。拒否られたら生きていけないし。 うんうん、と頭を頷かせていると、政宗の低い声が耳を打った。 「真田、猿飛。──お前らには、悪い報せがある」 思わず、政宗に視線を向ける。見えるのは真剣な表情だ。 幸村がの頭から手を離しながら、「悪い報せ?」と小さく呟く。 佐助が、「それって、もしかして」と盛大に嫌そうな表情を浮かべた。 「なんだよ、猿飛は知っているのか?」 「忍びだからね。情報には聡いよー。多分、竜の旦那の言う言葉、俺様の考えているのと同じだと思う」 「Ah,……そうか」 政宗と佐助だけが話を進めていて、幸村とは蚊帳の外だ。幸村なんて、「へ? な、なんでござるか?」と焦ったように言葉を紡いでいた。 それを見て政宗は苦笑を浮かべると、言葉を続ける。 「正体不明の軍団が、国境線に近づいてきている、らしい」 「へ……」 思わず、声を出してしまったのはだ。政宗はにちらりと視線を向けると、ついと逸らし、瞳を伏せた。若干、悔しげな表情を浮かべている。 「こんな、手薄の時期に」と呟き、少し経ってから、「だから、お前らのどちらかには、国境線に言って警備を行ってもらいたい」と苦々しげに言葉を発する。 佐助がやっぱり、と掠れた声で小さく呟く。幸村が「その、何故、某たちでござるか?」と至極不思議そうに言葉を発する。 「他にも、家臣団はおられるのだろう」 「まあ、居るがな。……こんなこと言いたくねえけど、正直、お前らより弱いのが事実だ」 「ふうーん。だから、俺様たちに頼む、と」 「Yes. 悪いか? 使えるモンは何でも使うからな、俺は」 それに、飯食ってるだけだしな、お前ら。と小さく政宗が付け足すと、幸村が「ちっ、違!」と焦ったような声を出した。 佐助は真摯な表情を浮かべ、「なら、しょうがないね」と小さく声を発し、その後、笑みを浮かべ、手をひらひらと振りながら、いつもと同じ声のトーンで、言葉を発した。 「俺様が行くよ」 政宗は視線を佐助に向けると、「……悪い、な」と言い、頭を下げた。 その様子に、は若干驚いてしまった。政宗が誰かに頭を下げるところなんて、見たことがなかったからだ。佐助も驚いたようで、「ちょ、りゅ、竜の旦那ってば、どうしたの!」と焦ったような声を出した。 政宗は下げていた頭を上げ、「──人にものを頼むんだ、これぐらいは当然だろ」といつもの笑みを浮かべた。 幸村はと言うと──唖然としたような表情でことの運びを見つめていたけれど、「そ、某もっ」と焦ったように言葉を発した。 その言葉に「Ah」と面倒臭そうに声を上げ、「お前には此処に居てもらう」と言葉を続けた。 思いもよらなかったのか、幸村は文字通り、開いた口が塞がらないようで──しばらくたってから、「な、なにゆえ!」と声を荒げる。 その言葉に政宗はやっぱり、面倒くさそうに頭を掻きながら、言葉を続けた。 「お前は、変と思わないのか」 「へ?」 幸村が変な声を出す。多分、何言ってるんだろう、この人、と思っているのだろう。かく言うもそうだ。どういう意味なのだろう。 幸村が「どういう──」と疑問を口に出そうとするのを遮って、政宗は言葉を発した。 「一揆の鎮圧──。大規模だったからな、当然、城に居る人手は少なくなる。それに加えて、正体不明の軍団。わかるだろ、おかしい」 「何処がでござるか?」 尚も疑問を口にする幸村に、佐助は苦笑を浮かべ、政宗は溜息を漏らす。 ……なんだろう、もわからないせいか、非常にその苦笑と溜息が痛い。 「間が良すぎるんだよ」 「……はあ」 「一揆が起こった、そしてそれに続く正体不明の軍団──。どこからか人手が少ないという噂が漏れたとしても、早すぎるだろ。続いて起こるには間が良すぎる。まるで、誰かが手引きしているみたいだ」 「……ということは」 「間者が居るかもしれないってことだ、You see?」 「へ。──あ、ああ!」 幸村はどうやら得心したようで、だから、某が残るのでござるな! と嬉しそうに語る。その様子を見て、政宗はさっきついたよりも重いため息をつき、幸村の頭を叩いた。勢い良く。 幸村が「いっ!?」と驚いたような声をだし、「い、痛いでござるよ……」とその場にうずくまる。……ご愁傷さまです。 そうか、そういう意味だったのか。と、は頭を頷かせた。そりゃあ、慎重になるのも当然のことだろうな──って、でも、間者として疑うなら、他国のものを疑うのが普通だろう。なら何故、幸村達は何を言われることもないのだろう。信頼──されているのだろうか。幸村達も、……も。 政宗が「だから、俺が家臣団を率いて国境まで行ったとして、残すのは数人の女中、それにお前らだけだ。その時に間者が手引きをして、何処からか城が襲われたら──」と続け、佐助に視線を向ける。 その視線で何かを感じ取ったらしく、佐助は「へいへい。んー、まあ、守ってれば良いんでしょ?」と苦笑を浮かべた。 「──準備が整ったら、鬼庭達を行かせる。それまで、持ちこたえられるな?」 「勿論。俺様をなめちゃ駄目だよ」 佐助は意地悪そうな笑みを浮かべ、何処からか取り出したのか大振りの手裏剣を取り出し、くるくると回して見せた。 ──なんだろう、怖い。怖い、というか、なんていうか、嫌な感じがする。 佐助が「んじゃあ、行ってくるよ」と言う。幸村が「佐助、頼むぞ!」と声をかけると、佐助は苦笑を浮かべて「へーへー」と気の抜けた返事をする。 は──どうしよう、何といえば良いのだろう。もうすぐこの人は戦場に行ってしまう、それなのに、なんだろう、やっぱり実感が無い。 頭を絞るようにして考えて出た言葉は、ありきたりなものだった。 「佐助……、気をつけてね」 ぐはあ自分何言ってんだ、もっとマシな言葉があっただろうに! あほーあほー。心の中で自分を愚弄していると、佐助はふっと笑みを浮かべ、「もちろん!」と言い、の頭にぽん、と優しく手を置いて「ちゃんこそ、気をつけてね」と言う言葉を残し、消えてしまった。 ……や、消えたって、本当に消えたのだ。佐助が今さっきまで居た場所には、落ち葉のようなものがぱらぱらと降り、なんだか漫画に出てくるような場面だなあーなんて、心の中でこっそりと思った。 しばらく、その場で立ち止まっていると、政宗が「! お前は部屋に居ろ!」と言い、続けて「幸村、来い!」と言って、その場を走って何処かへと行ってしまった。 幸村は政宗の言葉に返事をし、「殿、それでは!」と言って、続いて何処かへと走って行ってしまった。 その後姿を見ながら、は手を振り──、小さく溜息を漏らした。 なんだろう、なんなのだろう。最近、身の回りで起こることが全部、目まぐるしくて、なんだか苦しい。 前にも思ったけれど、やはり、此処は戦国時代なんだな、なんて、は変な事を考えていた。 部屋に戻り、敷いてある布団に倒れこむ。 目を閉じて、頭の中に思い浮かぶものは何も無い。 ……んー、なんだろう、最近、変だなあ。寝返りを打って、仰向けになる。閉じていた目を開けて、は懐から慶次に貰った簪を取り出す。陽にかざしてみると綺麗な色が反射をしてキラキラと光る──。 そういえば、慶次は今、どうしているのだろう。友人の──秀吉のところへ、行けたのだろうか。 確かめる術はない。 ……は、もう一度、目を閉じた。 →NEXT 2007/11/6 |