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Act55.憂いの過去 いつの間にか眠ってしまっていたのだろう、意識が急激に浮上してくる。瞼を開けると、暗闇が広がっている。なんだか、だるい。起きた直後って、なんだか体を動かしたくない。 どうやら夜のようだし、この分じゃあ夕餉なんて当の昔に終わってしまっただろう。もう一度、寝たら、朝が来るだろうか。 瞼をゆるく閉じると、さっきよりも濃い暗闇がを包む。 ふ、と呼吸をするごとに、眠気が増してきている気がする。寝よう。うん、二度寝万歳。 ──なんて思っていたら、誰かが乱暴にぎしぎしと縁側を軋らせながら歩いてくる音がした。 誰だろう、なんて考える余裕も無い。正直、眠たい。あと一歩で夢の世界へゴー! ヘイヘイ眠っちゃうぜ! みたいな心境なのだ。 どんな夢を見られるかな。良い夢だったら良いのに、と思う。悪夢なんてまっぴらごめんだ。 っていうか何を考えての脳は悪夢なんて見せてくるんだ。激しく問い詰めたい。出来るならば好きなキャラとラブラブエモーション刻んでいる夢が見たい。 あははうふふーこっちにおいでーつかまえてごらんーとか言う夢を見た……くないね、うん。正直、っていうか……だめだ。そこまで甘々なのはちょっと……。 ほのぼの甘くて優しい夢。それが望みです、見させてください脳内! ──祈るような気持ちで居たからか、っていうかただ単に考えすぎたからなのか、の眠気は何処かへとすっぽりと抜けてしまった。 あれ、眠たかったのに。今は眼が逆に覚めてしまっている。 閉じていた瞼をゆるゆると開けると同時に、障子越しに「!」と言う政宗の怒ったような声。 うえ。なんで政宗がの部屋の前に。 そう思いながら、「なんですかねー」と、寝起きで舌足らずな声で言い切ると、政宗の入るぞ、という声が聞こえ、障子が開いた。 え、ちょっと待って、、起きたばっかり──。 静止することは出来ず、は政宗と直面する。おいおい、知っていますか、平安では顔を合わせるのはご法度だったんですぜ! 男女の語り合いはのれん越しに! ……まあ、今は平安時代じゃないんだけど。 「What did you do?」 「へ、え、ええと……スリーピング……?」 いきなり英語で話しかけられ、の頭は混乱をした。思わず英語で返す。すると、政宗は呆れたように溜息をつき、夕餉は、と問いかけてくる。 夕餉、ですか。食べてませんけれど。食べてないよ、と返すと眉を潜められた。 「Ah,なんかもう……別に良いけどな」 「何が?」 「……。腹は?」 月明かりでも分かるほどに、政宗は顔をしかめた。──なんだか、申し訳無い。いや、謝ることって無いんだけれど。 どうだろう、起きたばっかりだし、わかんないやー。そう言うと、政宗は微笑を浮かべ、なら少し縁側に出ないか、と誘ってきた。断る理由もない。っていうか断るわけがない。 頭を頷かせると、政宗は笑みを深くした。 部屋から一歩外に出ると、大きな満月が目に入った。辺りはしんとしていて、起きている人は居るのだろうか、なんて思う。静かだねーと言うと、政宗はそうだな、と呟いた。 縁側を少し軋ませて座る政宗のよこに、も座った。 冷たい風が頬を撫でる。──何かを喋るのかと思ったのだけれど、政宗は何も喋らない。 何もすることがなく、は満月を眺めていた。 「──なあ」 少し、というか大分時間が経った頃、政宗が口を開いた。ん? と返事を返すと、政宗はふう、と息をつき、との距離を縮めるように近づいてきた。 何をする気なのだろう。不思議に思いながら、政宗を見つめていると、肩、と小さく呟かれる。 肩。なんのことだろう。そう思っていたら、ぽすん、と肩に政宗の頭が乗る。 「……借りるからな」 おおおおう良いですともおおお! なんですかこのシチュエーション、凄く恥ずかしいです。ぎゃー。 なんかもうなんかもう、どうしたの政宗、という感じだ。え、というかのテンションが異様におかしくなってきている。 なんだか色々と変な事を考えていたら、政宗がなあ、と小さく声を発する。 ……何か言うつもりなのだろうか、なんて考えて口をつぐんでいたのだけれど、政宗は何も言わなかった。 なあ、って。なあって何ですか。続きは。 「──悪いな」 「へ」 「疲れた」 疲れた。その言葉を政宗から聞いたのは、初めてだった。 政宗は何時だって、疲れを見せずに──居たから。船の上での病気の時以外。 あー、なんだか、ってば全然政宗のこと、知らないんだなー。なんて、しみじみと思ってしまう。 政宗は言葉を続ける。 「Ah,なんだろうな。……なんで、なんだろうな」 何が、と問いかけようとしたのを、政宗の言葉に遮られた。 「別に、普通のことなのにな」 一拍置いて、このくらい、と続けられる。 ……これは……。ええと、は何をすればいいのだろう。っていうか何が普通のことなんだ。 なんというか、政宗は沈んでいるようだ。ここはアレか。抱き締めたりして大丈夫だよ! と言えば良いのか。 どうなんだろう、でも、そんなことしたら逆に……なんだろう、駄目な気がする。 しょうがないので、は口を噤んで聞き役に徹することにした。 政宗が、口を開いた。 「あの時だって、そうだ」 「……それなのに」 「なあ」 急に名前を呼ばれて、驚いてしまう。政宗に視線を向ける。すると、いつもの意志を強く秘めたような瞳と、の視線が交わった。 政宗はによりかかったまま、右目を隠す眼帯に手を当てて、俺は、と声を震わせた。 「──情けないな」 「そんなこと、無い!」 思わず口を突いた言葉は、予想以上に大きくなってしまった。 政宗が驚いたように瞳を見開く。一瞬後、Why、と言う単語が政宗の口から漏れた。 な、何故って……。 「こ、根拠は無いんだけどね……」 小さく、ごにょごにょと呟くと政宗は苦笑を浮かべた。 なんていうか、居た堪れない。無責任、という言葉が頭を回る。うわあ、うわあー。もうどうしようもない。 政宗がの肩から頭を離す。政宗のほうへと顔を向けると、柔らかな笑みを浮かべているのが見えた。 なんだろう、場違いに綺麗だなあ、とおもってしまう。 「俺は」 政宗が口を開く。いつもより少しだけ低い声に、は一瞬だけ身じろいだ。 「昔、病気にかかって右目をなくした」 そっと政宗は先ほどと同様に眼帯に手をやる──。 そして、柔らかな笑みを一転、無表情に変え、言葉を続けた。 「醜い姿だと、母上に嫌われた」 「右目は眼窩から抜け出て、垂れていたからな。気持ち悪かったにも、ほどがあるんだろう」 「外にも出なくなったし、誰にも会いたくなかった──」 そこまで言って、政宗は眼帯から手をはなす。憂いを秘めて伏せられた瞳は、哀しみのためか揺らいでいた。 ──知っている、というか知っていた。政宗が瞳をなくした話は、有名だ。その後、母親に嫌われたという事も。 何故か、色々なキャラの過去を知っている自分に、嫌気がさす。 ……が、知らない人に過去を知られていたとしたら。平凡に過ごしてきた過去だけれど──、絶対に嫌だ。 政宗は伏せていた瞳を上げ、言葉を続けた。 「俺を連れ出してくれたのは、小十郎だった。垂れていた右目を切ったのも小十郎だ。 Ah,まあ、そうだな。それから俺は眼帯をつけて、人目に出るようになった」 だから、感謝している。政宗はそう続けた。 政宗が閉口した後、頬を撫でるように夜風が吹く。木の枝が揺れ、軋むような声をあげる。 なんていうか……。 「良いね」 「……?」 政宗が首を傾げる。それに苦笑を小さく漏らしつつ、は言葉を続けた。 「そういう風にさ、支えてくれる人が居るの」 支えてくれる人っていうのは、簡単には得られないよなー、と思う。 そう思うと、そういう支えてくれる人が居る政宗を羨ましく感じた。 なんだか無言になってしまった場を誤魔化すように、は伸びを一つして言葉を続ける。 「そういう人は、大切にしないとねっ」 政宗はの言葉に一瞬、驚いたような表情を浮かべたが、すぐになんというか、呆れたような表情に変えた。 政宗の口が何かを言おうと形作られる。けれど、政宗は何をいう事もなく、その口を閉じてしまった。 けれど、──笑みが形づくられている表情を見れば、何を言おうとしていたのかは微妙にわかる……ようなわからないような……。 ねえ、政宗、と声を出すと、政宗が何だ、と声を返してくる。 「は政宗のこと支えられないけれど、傍には居るよ」 支えてあげる人には、なれないだろう。多分、きっと。はそこまで強くないし。 というか、、傍に居る傍に居る言い過ぎじゃないの。どうなんですか、もう。 ずっと見守っているよ、影からね! 寝ている時もな! もうストーカーの領域に入っちゃうぜヘイヘイ! って思われても仕方ないよね。 そんなことを思っていると、政宗が小さくの名前を呼び、手を取る。 握手でもする気なのだろうか。英語で言えばハンドシェイク。……別に、英語で言う必要は無いんだけれどね! そう思っていると、政宗がぽつりと、零すように言葉を発した。 「前に、俺が言った事、覚えていてくれたんだな」 ……へ。え。な、何をですか……ね……。 政宗が言った事? え。どうしよう、わからん。どうしようもない。焦っていると、政宗がふわりと優しげな笑みを浮かべ、「Thanks」と言って、の手のひらに唇をつけた。 ……は? 「なっ! ぬあっ、ちょっ!! 政宗さん何やってんですかアンタ!」 「何だよ、悪いのか」 「いやっ、別に悪くないっていうか寧ろたまらんありがとうございます、この手は一生洗いません、って違う!」 政宗につかまれていた手を引っこ抜き、凄い勢いで離れた。いやいやいやいや! 何を、何をやってるんですか、本当に! いや、嬉しいけれど! って馬鹿ーー! 何考えているの! 頬に熱が集まるのを、感じた。……も、もう、もう! なんで、こんな急にっ! や、急じゃなかったら良いってわけじゃないんだけれどさ! 「はははは破廉恥ですよ!」 「破廉恥ってお前、」 真田の野郎の真似かよ、と政宗は呆れたような声を出した。いや、貴方。貴方の今さっきの行動を破廉恥といわずして何と言うんですか。 き、キス……されたのだろうか。手に。 そう思うだけで、頬に熱が急激に集まる。もう駄目だ。恥ずかしい。この場から居なくなりたい。 穴が有ったら入りたい心境っていうのは、こういうことを言うのだろうか。 入りたいなあ……穴に。出来れば深さ十メートルくらいの穴。 そんなことを考えつつ、火照った頬を何とかしようとしていたら、政宗が喉で、声を押し殺して笑うのが聞こえた。 視線をやれば、「」と、笑いの混じった声で名前を呼ばれた。 「──俺は、見回りにいくから居なくなる。何か食べたくなったら、厨房へ行け。場所はわかるだろ?」 そういうと、政宗は立ち上がった。や、見回りって……アレか。変なことしている人を捜すためにしているのだろうか。 仰ぎ見るように政宗の表情を見ると、目が合う。 ゆらゆらと、瞳が揺れているように見えたのは気の所為なのだろうか。 政宗が、からかうような笑みを浮かべた。 「What? ……厨房、覚えてないとか言うなよ」 「そっ! だいじょーぶですうー」 微妙に怒りを込めて言い返すと、豪快に笑われた。酷い。何ですかこの人。誰か止めて。 ひとしきり笑った後、政宗はSee you.と言って、踵を返し、何処かへと去ってしまった。 政宗が去った後、は言いようもない疲労感に襲われた。 お腹はそこまで空いていないし、 「……寝よ」 は、自分の部屋へと戻った。 →NEXT 何でこんなにも中途半端……! 憂いは辛いっていう意味で。 2007/11/13 |