「……わ」



朝起きて、郵便受けに郵便物が来ているかどうかを確かめてから、ある郵便物が届いているのを見て、はそんな言葉を呟いていた。





Act.7 つながれた手、優しくて





昨日、政宗と一緒に昼食を作って、夕食も政宗と一緒に作って。
少しずつ仲良くなっていってるかな? とか思って、少し嬉しく思っている最中に、 良いモノが のところへ届いた。

良いもの、とは水族館の割引チケットだったりする。

少し遠いところにある、水族館の割引チケット──それが、の家の郵便受けに入っていた、という訳だ。

いつもなら、『割引かあ、へえー』だけで終わっていくのだけれど、今回は、いつもと状況が全然違う。家には、政宗と幸村が居るんだ。
行ってみたって、良いのではないだろうか。二人が行きたい、というのなら、だけど。

そんな事を思いつつ、は自分の家へと戻って、リビングへと直行した。



「ねえ、政宗さんに幸村さん。
 水族館、行きたい? どうですか!」

「……すいぞくかん?」



の言葉に政宗と幸村は首をかしげた。いや、そりゃあ知らないだろうなあ……。訊きかた、悪かったかもしれない。
そんなことを考えていると、幸村が「その、スイゾクカンとやらは何でござろうか?」と訊いてくる。

それに、「綺麗な魚とか見れるところだよー」と答えると、「へえ」と政宗が何やら興味有り気に言葉を返してきた。



「いいじゃねぇか、綺麗な……魚……だよな? ……見てみてぇな」

「そうでござるなっ! 某、綺麗な魚は、あまり見たことが無いのです」



何やら、二人とも水族館に行くことに対し、同意を示してくれた。
幸村なんか、の手を取って、「早く、行きますぞっ!」と嬉しそうに言う。
政宗は「さあ、 その水族館とやらに行くぜ! Are you ready,guys!?」とか言ってる。後ろに小十郎とかが居るならまだしも、伊達軍は一人も居ないわけだ。ぶっちゃけ、寂しい。っていうか見ていてこっちが悲しい。

少し苦笑を浮かべつつ、「じゃあ、行こうか」と言ってから、幸村と政宗を昨日買った服に着替えさせて、水族館へと向かった。

切符を買って、電車に乗って、水族館への道を進む。
幸い、電車ラッシュの時間ではなかったので、車両内には、全然人が居なかった。

幸村が外の景色を見ては、「す、凄いでござるよ、お館さむわぁ……ッ!」と小さく呟いているのが聞こえる。
横顔をチラリと盗み見ると、その顔には笑顔、というかワクワクしたような表情が。期待を膨らませているような感じ。なんだか微笑ましい。
政宗は無言で座っている。うあー睫毛長い。ありえない。女か。女なのか。
何処かをじっと見据えているのだろうか、瞳が少し細められている。くうあ、格好良い。

すると、政宗はがじっと見ているのに気付いたのか、の方を向いて、少し苦笑しつつ、言葉を紡いだ。



「……なんだよ?」

「え、ああ、すみません」

「? 謝れとはいってねぇだろうが」

「……怖いです、政宗さん。声が低いよ、うん。アレか。ドスがきいてるよ、政宗さんっ!」

「……はあ? ドスぅ? 何だそれ。というか、質問に答えろ」

「え、あ、うん。
 ……な、なんていうか、端整なお顔をしているなあ、とか…。な、なあんて…アハハハ」



政宗が、少し機嫌悪そうにそう言うので、答えるとき、声がどんどんと小さくなっていってしまった。
っていうか。端整なお顔って何だ。こんなの、男の人に言う言葉じゃないだろうが、馬鹿ー!
かなりの勢いで過ちを犯してしまったのではないだろうか。心の中で「ああああアホー!」やら「何言ってるんだー!」とか考える。
怒ってるのかな。ヤバイ? もしかしなくても、ヤバイのか?
心の中で冷や汗をだらだらとたらしつつ、は政宗の顔を仰ぎ見る。


政宗は案の定、少し顔をしかめて、「端整……な訳ねぇだろうが。少なくとも、あの人にとっては──」と、苦々しげに言葉を呟き、途中で詰まらせた。

ヤバイ。っていうかヤバイ所の話じゃない。
は何か嫌な事を言ってしまったのだろうか。トラウマをほじくりだしてしまったのだろうか。どうしよう、自分の無神経さに悲しくなってくる。
焦っていると、政宗がの方を見て、ふっ、と笑って頭に手を置いてきた。



「……Ha! 冗談だ、なんにもねぇよ」

「え、政宗さん……?」



政宗を仰ぎ見ると、笑みが目に入ってくる。けれど──違う。今さっき、耳に入ってきた声は、確かに震えていた。が怪訝に声を発した直ぐ後車両内にアナウンスが鳴り響いた。次の駅の名前を言っている──次が、たちの降りる駅だと、告げる声だ。
政宗はその声が鳴り終わったと同時に手をの頭から下ろす。そして「次か? 降りるのは」と問いかけてきた。
それに、「うん」と言葉を返すと、「そうか」と呟き、と政宗の会話は其処で途切れてしまった。
甲高い音を発し、電車が止まる。降りる駅だ。

幸村に「降りるよ」と声をかけた。幸村は外の景色に向けていた視線をに向け、「降りるのでござるかっ。」と何やら嬉しそうに言って、 の傍へと歩いてくる。
政宗も、同じように立ち上がり、がするのと同じように電車から降りた。

電車から降りて、改札を通り少し行ったところに、その水族館は あった。
やっぱり、というか予想通り、家族連れの人が多かった。……同じくらい、カップルも多かった。くそう、イチャコラしやがって、と思ってしまう。

その後、何事も無くチケットを買い、達は水族館内に入った。
所狭しと並んでいる大きな水槽の中を、熱帯魚やらなんやらが泳いでいる。
其れを見て、幸村が瞳をキラキラ輝かせて、「! す、すご……」と、何やら声を震わせて呟いていた。

政宗が色とりどりの熱帯魚が泳いでいる水槽の近くへ行き、「Oh,Beautifulじゃねえか!」と嬉しそうに言っていた。

なんていうか。やっぱり、二人の反応は可愛いのう…。
こう胸がキュンキュンするわ。うん、正直に言う。萌える。

それにしても、政宗と幸村を見ている女の子がかなり居るように感じられる。
カップルの彼女の方が政宗や幸村を見て、「格好良いー!」とか言って、彼氏の方が「…俺よりアイツの方が良いのかよ」とか訳わからんヤキモチを焼いて、彼女が彼氏の肩を軽く叩きながら──「やだっ、何言ってるの。私にとっての一番は貴方!」とかハッキリ言って、……なあんて少女漫画でよくありがちな展開が繰り広げられていたりもするけど。うん、あれ。今って何時代?

正直、有り得ない。っていうか今時の少女漫画でも、そんな展開無いかもしれない。
うわあ……。とか心の中で思いつつ、政宗と幸村の居るところへ近づき、 「次はさ、あっち行こう!」と言うと、二人は「分かったでござるよ!」、「ああ、良いぜ」と口々に言って、の後ろをついてきてくれる。



何と言うか、二人をつれて歩く最中、凄い視線が痛かった。
アレか。刺すような視線ってこのことか。もう良い。慣れた、慣れたさ!

そんな事を思いつつ、二人を連れて、水族館を回る。……時間が進むたび、少しずつ人が増えてきた。
だから、手を繋いだ。人ごみのせいで、はぐれないように。
二人の了承を得てから繋いだから、やましい気持ちなんてありませんよ! うん!

時々、会話をしたりなんかして。でっかいサメを見つけて「うわっ、政宗さんに幸村さん、サメだよ。サメ!」と言ったら、「あんなの何処で釣れるんだ?」やら「凄いで御座る!」と、返された。


水族館を楽しく見て回って、気付いたときには夕暮れ時になっていて。そろそろ帰ろうかー、と言って、 水族館から出て、電車に乗り、駅で降りて家路を歩いている最中、気付いた。


あれ、、水族館から手を繋いだまんまじゃーん。
ちょっ、水族館なら大義名分があったからまだしも、今は家に帰る最中!はははは恥ずかしいー!


そう思って、手を何気なく離した。少し、少しだけ! 名残惜しいんだけど、ね!
そんな事を思いつつ、温もりの残った手を見て、頬をにやけさせていると、
後ろから幸村が「……殿」と声をかけてきた。


え、何。何ですか幸村さん。怒っているのか。アレか。
てめぇ今さっきまで俺らの神聖な手を掴みやがって、容赦しねぇぞ! みたいなそんな、……バカな、ありえねぇっ!
って今は元親の真似をしている場合じゃなく!

自分で想像をしておいてなんだけど、きっとそんな事は言わないだろう──幸村、だし。うん。きっと……きっと……。
そんな事を思いつつ、「何ー? 幸村さん」と言いながら、幸村の方を向いた。内心、ドキドキバクバクだ。



殿、手を貸してくだされ」

「……へ、なんで?」

「いや、手を……繋ごうと、思ったのでござるよ」

「……え?」

殿が嫌ならば、しませぬが」



一瞬、幸村の問いかけに驚いた。
少し無言で居ると、「やっぱり、嫌でござるよね」と幸村が苦笑して、手を繋がせようと思っていたのだろう差し出していた手を下ろそうとした。



「ううん、嫌じゃ無いよ。手、繋ごう! うん!」



そう言って、が下ろされた手を一方の手で掴むと、幸村は少し嬉しそうに笑った。
政宗も、何やら手を差し出してきて、「……手」と言って来た。
ちょっ……、どうしようもなく可愛い! ヤバイ! 死ぬ!


政宗の差し出した手を、空いている方の手で握った。
幸村が「水族館、とても楽しかったでござる!」と言葉を弾ませる。
その後、少しの間も開けず、政宗も声を弾ませて言葉を発する。



「ああ、面白かったな……。……お前の世界には、色々と楽しいところがあるんだな」

その言葉に、「うん、お気に召してもらえたようで嬉しいよ。も」と返した。





外灯の光が、三つの影が薄く浮かびあがらせる──。
繋がれている、手。それは、優しく暖かだった。



NEXT



後書き



今回は水族館へ行きましたね。前々からしたかったですので、微妙にホクホク幸せです。
少しずつ仲良くさせたいです。今の所アレですか。友達っぽい感じで!
それではでは。

2006.3.19