退屈で、でも面白くて、楽しくて、幸せで。




4時間目 明日も、明後日も




学校へついて、自分の席にへたりこむようにして座った。
遅刻、しそうになった。

途中まで行ったところで忘れ物に気付いた。
いや、普通の授業だったら「あ、忘れ物しちゃった。まあいっか!」で、すむんだけど、
よりにもよって明智先生の授業で使う教科書の忘れ物をしてしまった。

バ ラ さ れ る … … !

そう思ったは瞬時に方向転換し、自分の家へと急いだ。
家で教科書を鞄の中に入れて、また自転車で学校までこぐ、こぐ、こぐ。
はっきり行って疲れた。ほんと、学校、休みたかった。
遅刻したらどうしよう、遅刻したらどうしよう。そんな考えだけが頭の中をぐるぐると回っていたので、
自転車をこぐ速さは当然のように凄い勢いになり、ギリギリながらも学校へ始業時刻までに着くことが出来た。
、頑張った。ほんと頑張った。

ぜえぜえと荒い息を落ち着かせていると、クラスに遊びに来ていたいつきが話しかけてきた。




「おはよ、! どうしたんだべ? そんな、呼吸が」

「っ、おっはよう。 ちょっとね、ちょっと、……」

「ちょっと? どしただ? ほんとに。オラ、心配だべ」

「いや、本当に大丈夫だよ。強いて言えば朝から死にそうになっただけだから」




いつきが驚いた表情を浮かべて「死にそうに!?」と声を荒げる。
いやん、ちょっと声が大きいですよ、いつき。

それに、「冗談」と言葉を返して、いつきの頭を優しく撫でた。さらさらの髪の毛。
どうやって手入れしているのだろうか。是非、そのキューティクルを保つためのコツをお聞きしたい。
そんな事を考えながら、いつきの頭を撫でるのを止めないでいると、いつきが「、その、」と、
ごにょごにょと言葉を濁しながら、時計を指差して、「おら、もう行かなきゃ」と呟く。

見れば、ホームルーム開始まで、もう一分前だ。

「ごめんね、ありがと」と、いつきに感謝の言葉を述べてから、頭から手をどける。
いつきは去り際に「また休み時間、行くから、待ってて欲しいだよ」と言って、自分のクラスへと走っていった。おーおー、速い速い。

ホームルーム開始までに席に座っていないと、遅刻扱いになる。
一分前に政宗と小十郎がやってきて、席に座る。幸村はの前の席に背筋を伸ばして、座っている。いつもと同じ風景、けれど違う。
元親が居ない。

キンコンカンコン、とチャイムが鳴って、元親が居ないまま、ホームルームが始まる。
どうしたんだろう。風邪かな。色んな思いをはりめぐらせていると、教室の扉が開き、ザビー先生が入ってきた。
教卓へつき、「皆サン、おはよーございマース!」と大声を張り上げて挨拶をする。

生徒全員が返事をするまで、先生は言い続けるので、返事を返す声がぽつぽつ、と出る。
生徒が返事をしてくれたので、先生は満足したのか、「それデハー、今日伝える事ハー」と、
色々と話していく。眠たかったし、それに隣の空いている席が気になったので、あまり聞いてなかった。

伝えることは全て話し終えた後、ザビー先生はついでの様に、
「長曾我部サンは、今日ハー、遅れて来るらしいデース」と、言って、
「皆サン、今日も頑張りましょうネー!」と、嬉しそうに続けた。それで、今日のホームルームは終わっていった。




その後、何事も無く授業を受けて、気がつけば、もうお昼だ。
いつきが「オラと一緒に手、洗いにいくべっ!」と元気良く言って、の手を引く。

手洗い場で、蛇口を捻り、手を洗って。クラスの前でいつきと別れて、扉をあけ、中へ入ると、
元親が、居た。に気付いて、「よ、!」と声を、掛けてくる。




「元親、おそよう」


「ああ、おそよう。なあなあ、、授業、何処まで進んだ?」


「ん? いや、普通に……。ノート、貸そうか?」


「おっ、サンキュー! 助かる、いや、本当に。様々だな」




何を調子良い事、言ってるの。と言いながら、ノートを机の中から取り出して元親に渡す。
元親はソレを手にとって、もう一度「ほんっと、ありがとな!」と感謝を口にした。
なんだか、とても元気だ。風邪……じゃ、無いなら、なんで遅刻したんだろう。
そう思って、は元親に問いを投げかけた。




「ねえ元親、どうして今日、遅刻したの?」


「ん、いや、体調、悪かったからさ……、病院行ってー、んで、此処に来たら、こんな時間に」


「そっか。……で、大丈夫だったの? っていうか、風邪なんですか、そうなんですか」




元親が、と机をくっつけながら、首を横に振った。
と元親は良く一緒に御飯を食べる。何処ででも食べていいよ、とは言われているんだけれど、
外に出るのは時たま。大体は教室で食べている。
政宗と小十郎は、いっつも外の日当たりのいい場所で食べているし、幸村は武田先生のところに行くから、
教室にはと元親しか居ない。これは楽だ。気が置けない人だけしか居ないのは、とても。

弁当を取り出して、机の上に置く。元親も鞄から弁当を取り出して、机の上に置いた。




「お弁当、持ってきてたんだ?」


「そりゃあなあ。学校、行く気マンマンだったしな」


「体調悪いのにか。凄いね。だったら休むよ、きっと。いや、多分……ってか、絶対!」


「なんでそんな力説」




苦笑しながら、元親は弁当の蓋をぱかりと開けた。
中に覗くのは、とても美味しそうな色とりどりのおかずと、ごはん。
元親は「いただきます」と手を合わせて、そう言い、弁当に手をつけ始める。
も元親と同様、「いただきます!」と言ってから弁当に手をつけはじめた。

時々、雑談を加えながらも、箸はどんどんと進んでいき、お昼の時間が随分と余ってしまった。
ので、一息ついてから元親に話しかける。



「元親ー、ホントに大丈夫? ってか、病院ではなんて?」


「大丈夫だぜ? 本当に。
 病院では薬、貰っただけだし……、そんなに辛くねえよ、な!」


「それなら良いんだけどさ……。元親が倒れたら、何も出来ないや」


「先生呼んでくるとかは出来るだろうが」


「ええー、ヤだよ。無理。っていうか、先生って誰を呼べと」




明智先生とか? と訊くと、元親は満面の笑顔を浮かべて「そういう冗談はヤメロ!」と叫ぶように言う。
冗談じゃ無かったらどうしてたんだ。いや、冗談ですけれどね。

元親が鞄から錠剤の薬を取り出して、口に含む。バリボリ、と音が……、って
音!?




「ちょっと何、噛んでるんですか元親――!」


「うわ、にが」


「そりゃそうじゃん! ってかそんぐらい分かれよ! あんた何年生きてるんですか!」


「え、17年だろ?」


「マジメに答えないでください」




元親が変な顔をして、「だったらなんて答えれば良いんだよ」と、不満そうに声を出す。
口を尖らせて、なんだか不満そうな表情も浮かべているのだけれど、やめてほしい。
とても気持ち悪いです。気付いてやっているんですか。

机に顔を伏せて、「今まで、ずっと噛んできたの?」と訊く。




「ああ。だって噛むモンだろ?」


「いや、多分、世間一般的には違うと思うんですけれどッ!」


「だったらどうやって薬食べるんだよ」


「水でさ、飲んだり……、水で流し込んだり……。
 噛む人は、あんまり居ないと思うんだけど。は初めて見た」


「ふうん……、まあ、でも、ほら、良いじゃねえか! な!
 十人十色、って言うし」


「いや、何……もう、良いよ。元親は自分の道を突き進めば良いよ。
 ぼーいすびーあんびしゃーす」




思いっきり日本語のような発音で言う。元親が何だか「ははっ」と声を漏らす。苦笑しているような、そんな声。

っていうか本当、噛むって……どうよ。錠剤はまだしも、粉薬はどうするつもりなのだろうか。
舐めるのか。苦いのに。恐ろしく苦いのに。
想像していたら、あの苦さを思い出してしまった。うわ、最悪。

甘いもん食べたい、甘いもん。甘いもんプリーズ。あ、そういえば学校の帰り道に自販機あるや。
今日は職員会議があるからって、五限しか無いし。帰りに買おう。いちごオレとか。ミックスオレとか。
紅茶とかでも良いかも。あー、早く学校終わんないかな。

顔を伏せながらそんな事を考えていると、元親が「なあ、」と声を掛けてきた。




「なに?」


「今日、一緒に帰ろうぜ、な!」


「あ、うん、良いよ」


「おっ、ありがとな」


「いえいえ、どうもどうも」




そんな事をしているうちにチャイムが鳴り、お昼時間は終わってしまった。次の授業は英語だ。
机をガタガタと音を立てながら元に戻し、ノートと教科書を机に出した頃には、皆が席についていた。



授業もすんなりと終わり、もう放課後だ。元親とともに、少し薄暗い帰り道を歩いていく。




「この頃、日の入りが早いね」


「そうだな、なんていうか直ぐに暗くなると、なんか……いやだよな」


「そうだね。なんか損した感じ」


「ああ! そうそう、そんな感じ!」




二人で歩幅をあわせて、てくてくとあぜ道を歩いていく。
途中で別れるところがあったのだけど、「この頃変質者出るし」と言う理由で元親に家まで送ってもらえた。
なんという紳士。ありがとう元親、これから君の事は紳士と呼ばせていただく。

家の門の前で、「ばいばい、紳士」と言葉を発すると、元親は変な表情を浮かべて、
「なんだよ、紳士って」と言いつつ、の頭を軽く叩いた。




「紳士は紳士じゃん」


「だから、意味が……」


「ま、気にしないでよ、ね! キャーありがとー元親ってば心広いー」


「俺、何にも言ってないんだけど。
 ……まあ、その、じゃあ、俺行くわ」


「ん、ありがとね、送ってくれて。とても助かりました。
 っていうか、元親、変質者に襲われないように気をつけなよー」


「ハア!? おまっ、何いって……。
 もういい、じゃあな」


「身体には気をつけなよー。風邪ひいて明日、学校休まないでね」


「俺が休むと思うのか?」


「思……いや、思わないや。学校大好き元親だもんね」


「何それ。俺を馬鹿にしてるのか」


「いんや、違うよ。んじゃ、まあ、ばいばい」


「……ああ、じゃあな」




が手を振ると、元親も手を振りかえしてくれた。
元親の背中を見送ってから、家へと入る。


明日も、今日と同じような日々が続くのだろう。
明後日も、明日と同じような日々が続くのだろう。

退屈、なのかもしれない。けれど。

こうして居られる平凡な日々が、
は何よりも大切だ。


NEXT


つ、かれた……。最初は物凄いシリアスだったんですが、「こんなんじゃ駄目だ!」という事で書き直しました。私はよく書き直します。それこそ最初から書き直すことも多々。
シリアスな小説は読んでいても疲れるらしいので……。普通な小説を目指しました。強いて言えばほのぼの。
ほのぼの、好きです。シリアスとかも。悲恋とかも。姉に話したら外道と言われました。酷い。


2006.11.29